第4話
カナン・D・ドラゴニアは竜人種である。
それが何を意味するかと言えば、まず第一にとても偉い存在である点が挙げられるだろう。
竜人種は世界で最も強い種族であり、100年前のダンジョン出現では人類の生存に大きく貢献している。
その強さは単騎で国家に匹敵するとまで言われており、事実として『王竜』と呼ばれた一人の竜人種が魔獣に滅ぼされていた国を幾つも救った話はあまりにも有名だ。
以来、世界の守護者として、竜人種はとても高貴な存在として扱われている。
「そんな彼女がダンジョンで負傷をしてしまったわけだ。国が彼女に護衛を付けろと五月蠅くてね」
「んな事言っても、竜人種を護衛できる人間なんて、ほとんどいないでしょう」
カナンも子供とはいえ竜人種である。
国家に匹敵とまではいかなくとも、並みの探索者が束になっても敵わない実力はあるのだ。Aランク探索者でもなければ、守るどころか守られるのが関の山だろう。
そしてAランク探索者はそこらに転がっている人材ではない。
「私も足手まといはいらない。配信の邪魔だし」
どうやら一度死にかけたのにまだ配信をする気らしい。
元気過ぎんだろと呆れていると、雨宮課長がニヤリと笑う。
「だがどうしても護衛は付けなければならない。そこでだ、河見君」
曲がりなりにも「カナンを救助した」という事実のある俺ならどうだという話が出たわけか。
そしてカナンもそれをOKしたというわけか。
なんでだよ。
「うむ、では任せたよ河見君。もちろんカナンの護衛と並行して、役所の業務はこなしてもらう必要があるが_______そこは頑張ってくれたまえ」
なんでだよ!
■■■
というわけで、ダンジョンである。
今晩も残業が確定した事実で絶望する俺の隣で、カナン・D・ドラゴニアが配信を開始する。
「じゃ、今日も配信やってきまーす」
「えー
ふざけんなよ!
日常業務だけでも残業常態化してんだぞ!
まだ仕事増えるのかよ!
定時帰りなんて今年一回もしてないのに! 有休もまだとれてねぇ! 人間の耐久実験してーなら他所でやれや!
と、思っても口には出さない。
口に出してもどうにもなんないからね。
さて、配信が始まったらしいので、ニコニコ窓口対応モードに入ることにする。
「昨日は酷い目にあったからね。今日はリハビリがてら夜湖町ダンジョンを管理してる役所の人と一緒にダンジョンの様子を見て回るよ。よろしくねオニーサン」
「夜湖町役場 交通課職員の河見レンジロウです。よろしくお願いします!」
「ん、それで今日はダンジョン上層のモンスター駆除だっけ?」
「そうですね!」
今回のクエストはダンジョン上層の環境維持、つまりはモンスター駆除である。
上層は通路が整備され、なんなら簡単な街まで出来ているのだが、ここはダンジョンだ。モンスターは当たり前のように湧き出てくる。
ゴブリン、トレント、コボルトにウルフといった低級なモンスターだが、しかし油断すれば命を落とす怪物だ。
ダンジョンで命を落としやすいのは、深層に突っ込んでいくダンジョン配信者だけではない。
探索者を始めたてのビギナーこそ死亡率はダントツなのだ。
単純にモンスターを舐めて戦って返り討ちにあう人間もいるが、全国調査では低級モンスターに囲まれパニックになったビギナー探索者が、そのまま袋叩きにされて命を落とすパターンが圧倒的に多い。
そうならないように上層のモンスターを適度に狩り、初心者が活動しやすい環境を維持するのが今日の仕事だ。
「へー、上層も結構広いよね。何人くらいで対応してるの?」
「普段は一人ですね!」
「なんて???」
「でも今回は二人ですね!」
フロア全体を一人で維持するのである。
一人で。
本来は探索者を採用して専門職員として雇うのが一般的であるのだが、これは財政難、費用削減、雇用人数の制限など様々なしがらみ故に夜湖町は役所職員が一般業務と共に兼任しているのだ。
ぶっちゃけイカれていると思う。
「え? いや、.........は? でもフロア広いんだけど」
「なので、急いで取り掛かる必要がありますね! では私が先導するのでカナンさんは付いて来てください!」
マトモではないが、しかし泣き言をいう時間はない。
上が予算と計画を取り決め、現状がそうなっている以上、下っ端職員は仕事をこなすしかないのである。
フロアを回りきるには、ノンストップでの移動が不可欠。
不本意ながらクエスト開始だ。
楽しい楽しいデスマーチの始まりだぜ!!!
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