第3話


 ダンジョン配信者というのは人気商売である。


 アイドル性___とまではいかないが、大勢の視聴者を引き付けるには、相応の魅力が求められると言っていい。


 配信者がダンジョンで純粋に強さを見せつける、役立つ知識を披露する、奇抜な企画を計画するのもいいだろう。

 だが、もっと単純に視聴者を引き込む要素がダンジョン配信には存在する。



 ______容姿ビジュアルである。



 圧倒的に見た目が良ければ、強かろうが弱かろうが、なんなら配信が面白くなくても一定以上のファンが付くという。

 なんとも露骨な話ではあるのだが、しかし事実として有名ダンジョン配信者はイケメンもしくは美少女が多い。


 そして、それは目の前のダンジョン配信者も同じであるようだ。


「紹介しよう。彼女は世界的に有名なダンジョン配信者のカナン・D・ドラゴニアさんだ」


 後ろに纏め上げた銀髪、切れ長の碧眼。

 小柄ではあるが機動力重視の探索装備をカジュアルに着こなしているのは、場慣れしたダンジョン探索者の少女だった。


 これだけならただの人間、珍しいのはここからだ。


 彼女には美しい大角、天上の衣装と錯覚するような背の竜翼、そしてゆらりと揺れる長い尾があった。


 いわゆる『竜人種ドラゴニア』という種族である。


 確かに昨日の少女だった。


「............あ、やっと来た」


 会議室でくつろいでいた少女が、待ちくたびれたとでも言いたげに立ち上がって、ゆっくりと伸びをする。


 流石はダンジョン配信者、何気ない動作まで絵になるなぁと感心する。 


「夜湖町役場職員 交通課の河見かわみレンジロウです」


 さっさと挨拶だけして、あわよくば退散させてもらおう。そんな考えでとりあえず簡単な挨拶と一緒に名刺を取り出す。


「そ、よろしくねレンジロウ」


 渡した名刺を受け取った後、カナン・D・ドラゴニアがじっと俺を見る。


「へぇ、ふーん」

「............どうかしましたか?」


 なんだろうか、品定めされているようで落ち着かない。

 相手が相手なので仕方のない事ではあるが。


 ______ダンジョン配信者の『カナン』と言えば有名だ。


 17歳にしてAランク探索者として活動する実力派の配信者でありながら、類まれな容姿、クールなキャラ、なにより探索者では珍しいソロ活動がかみ合って、恐ろしい人気となっている。


 登録者数は3000万人オーバー。


 配信は世界中が注目する超人気コンテンツであり、彼女はまぎれもなく世界級ワールドクラスの存在である。


 正直、彼女を助けた時は疲労でロクに頭が回らなかったが、とんでもない大物のを助けた事に内心ビビり散らかしている。

 そんな人気配信者が田舎の公務員に何の用なんだ。


 ストレスで背中に冷や汗を滲ませているとカナンが口を開く。


「レンジロウは星3、ノーマルレアって感じだね。それもガチャからめっちゃ排出されて凸数はあるけど、存在感がなさ過ぎて使われないタイプのユニット。廃課金には舌打ちされて分解とか売却とかされちゃいそう」

「え、ガチャ評価されてる?」

「剣の近接戦特化で範囲攻撃は出来なさそうだね、手堅い性能だけどそれ故に高レアには敵わない」

「性能評価までされてる.........」


 なんか急にソシャゲベースで分析されてるんだが?


 失礼過ぎるだろ。

 

 結構しょっぱい扱いされてるし。

 でも大体の評価があってるから何もいえねぇ。


「冗談だよ。助けてくれてありがとうね、おに―さん」

「いえ、仕事ですので」


 嘘つけ絶対マジ分析だったろ。

 ダンジョン配信者は癖の強い人間が多いが、目の前のカナン・D・ドラゴニアもなかなかの曲者のようである。 


「はっはっは! 面白いな河見君!」

「全くですね、雨宮課長」

「ではカナンさんのジョークで場も暖まったことだし、本題に入ろうか」


 何時の間にか用意された資料を、雨宮リンネが手渡してくる。


 A4用紙3枚程度で纏められた資料に目を通す。

 ずらずらと回りくどい言い回しだったが、内容は非常にシンプルなものだった。


 『ダンジョン配信者カナン』との広報活動を実施するというもの。


 それはつまり______



「河見レンジロウ職員に依頼クエストを発行だ。これより君はダンジョン配信者カナンと共に配信活動を行なうことを命じる」

 


 俺はなんとも言えない表情を浮かべてたと思う。

 


 



 






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