第24話 クリームのように甘い甘々デート

 学校を後にして、そのまま家を目指して歩く。

 今日は、じっちゃんの気配がない。

 きっと用事があるんだろうな。


 それにしても。


「……お兄ちゃん、変な気分になってきちゃった」

「!?」


 学校を出てから愛夏の息が荒かった。

 俺の腕にずっと絡みついているが……まさか、擦れたとかじゃないだろうな。……多分、そうなのかな。


「このままどこかお店寄ってく?」

「マテマテ。その状態で寄り道は危険度マックスだろ……」

「大丈夫、見えないし。変な気分にはなるけど」


 おいおい、いいのかよ。

 けど愛夏が良いというのだから……問題ない、か。


 どちらせよ、どこかへ寄って行きたい気分ではあった。買い食いとかね。


 となると――そうだな。

 この辺りには大判焼きを販売している『黄緑屋』がある。そこへ寄っていこう。


 駅前へ向かうとその店はあった。

 こぢんまりした小さなお店。


「ここで大判焼きを買っていくか」

「いいね! たま~に食べるのが良いんだよね~」


 その通り。たまに食べるから美味しいのだ。

 けれどこの黄緑屋は創業百年らしく、その歴史は長く、人気も高い。未だに行列が出来る時もあるという。

 今日は幸い、混雑はない。


 わずかな列に並び、五分後。


 俺たちの番が回ってきた。


 お店のオバちゃんにクリーム味を二個注文。

 一個百円という良心的に値段に感謝し、代金を支払った。


 数秒で大判焼きが手元にやってきた。


「近くのベンチで食べよう」

「うんうん!」


 ベンチに腰掛け、俺は紙の包を開けた。ホカホカの出来立ての大判焼きだ。

 手に持つと柔らかくてモチモチしている。


 さっそくかじってみると――。



 トロッとクリームが出てきて、脳が幸せになるほどの甘味を感じた。……うめぇ。うますぎるって。



「これこれ。このクリームの味が最高なんだよ」

あんも好きだけど、クリームも良いよね~」


 ちなみに期間限定でチョコ味もあった。

 やっぱり王道と言えば餡だが、しかし、俺はクリーム派。これを百円で味わえるとか黄緑屋に感謝しかないな。


「ん~、飲み物が欲しくなる」

「はい、お茶」

「ありがとう、愛夏。って、これ!」

「うん、さっき買った飲みかけ」

「……お、おう」


 間接キスになってしまうが……こ、これくらいはもう経験済みだ。少し緊張しながらも、俺はペットボトルに口をつけた。


 喉が潤っていく。最高だ。


「そういえば……」

「ん? どうした、愛夏」

「テストが近いね」

「あ~、そんな時期だったな。勉強がんばらないと」

「お兄ちゃん、真面目に授業受けてないでしょー」

「そりゃね。俺には畑があるし」

「やっぱりそれ。そんなこと言っていると留年しちゃうよ」

「その時はその時かな」

「ダメ。ちゃんと卒業しなきゃ!」


 じっちゃんからも、せめて高校は卒業しろと言われている。就職とかに響くからと口酸っぱく言ってくるが、農業で食っていける自信がある。

 俺監修のもと、無人販売に通信販売をすでに始めているし、不安など一ミリもなかった。なんなら愛夏を養っていくことも可能だろう。


 そう、俺にはそういう能力があった。


 けど愛夏もじっちゃんも心配してくれている。

 このままではダメなのは承知しているが――そうだな、カッコ悪いところは見せられないか。


「分かった。じゃ、一緒に勉強してくれ」

「いいよ~。教えるのは得意だから」


 一応後輩である愛夏から勉強を教えてもらうことに。頭の良さでいえば、愛夏の方が上だ。見て貰うことにしよう。

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