第18話 幸せの味

 ゲームセンターへ到着。

 出入口からズラリと並ぶクレーンゲームの筐体の数々。圧倒的だ。

 ぬいぐるみにフィギュア、お菓子など種類豊富。

 しかも、このゲーセンは今時には珍しい設定がやさしいことで有名だ。


「さっそく取るか」

「お兄ちゃん、なにをやるの~?」

「う~ん、そうだな」


 歩いて眺めていると、みかんのぬいぐるみが目に入った。

 ……あれはかなり昔に流行った『みかん聖人』だ。じっちゃんの骨董品のようなパソコン『Windows59』のスクリーンセイバーに映っていたのを記憶している。


 愛夏もなぜかアレを気に入ったようで、欲しそうに眺めている。


 どれ、やってみるか。


 財布から100円を取り出し、俺は投入。


 クレーンゲームの操作ボタン【←】を押してアームを進めていく。それから【↑】へ移動。みかん聖人の頭上に落としていく。


 アームが絶妙な位置と隙間に食い込み、みかん聖人をキャッチ。持ち上げた。



「これ、いけそうだね!」



 愛夏が俺の代わりに確信してくれた。

 見守っているとアームは強固で、落とす気配なく景品取り出し口へ向かっていく。

 さすがゆるい設定で有名なだけある。


 そして、ついに『みかん聖人』をゲットした!


「一発で取れたな」

「さすがお兄ちゃん!」

「いや~、ここは設定が入っているからな」

「それでも凄いよ~」


 そこまで褒められると照れるな。


「ほれ、愛夏。みかん聖人だ」

「え、くれるの~?」

「欲しそうだったからな」

「ありがと~。うれしいっ」


 バスケットボールほどの大きさがある『みかん聖人』を抱きしめる愛夏。その女神のような笑みを見られただけで俺はお腹いっぱいだ。


 その後もフィギュアやお菓子など挑戦。


 苦なくほとんど景品をゲット。

 このお店、こんなに簡単でいいのだろうか……。赤字覚悟にしては大盤振る舞いすぎる。他の客も乱獲してるし。


「さて、ここまでにするか」

「袋いっぱいだよ、十分すぎるね」


 俺も愛夏も大きな袋にたくさんの景品をつめこんでいた。こんな取れるとは! しばらくお菓子には困らないぞ。


 時間も迫ってきたので、最後にカフェへ寄ることに。


 愛夏の好きな『スターボックス』へ。


 スターボックスと言えば、甘くて美味しいコーヒーなどが売っている。けど、目的はフランペチーノだ。ちょっと値段が高いけど、あれは絶対に外せない。


 そのまま二階にあるスターボックスへ入店。

 すこしだけ並ぶと直ぐに番が回ってきた。

 期間限定のストロベリーフランペチーノを注文。

 少し待つと、片手でギリギリ持てる大きな容器が届いた。すでに甘い匂いが漂い、俺は歩きながらストローに口をつけていた。


 う~ん、甘美。……うめぇ。


「脳が爆速で回復する~!」

「メロン味もあまあまで美味しー!」


 愛夏はメロン味にしたようだ。


「へえ、美味そうだな」


 そんな風に眺めていると、愛夏が俺の視線に気づいた。


「じゃあ、お兄ちゃん、わたしのと交換しよっか!」

「マ、マジか……」

「嫌?」

「嫌じゃないけど……いいの?」

「いいよ。はい、どうぞ」


 飲み物を交換……したはいいけど、これは間接キスってヤツでは。

 固まっていると、愛夏は照れながらも俺のストロベリーに口をつけていた。

 思えばこういうのは初めてだ。

 なかなかに勇気がいる。

 けど、愛夏がそうしてくれたのなら、俺も――。


 ストローに口をつけ、俺は味わった。



 ……これが幸せの味か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る