第2話

 呆然と立ち尽くしていると、周りの人がこちらを見つめているのが分かる。


 どうやら周りの人々はあの光景を見ていなかったようだ。


 つばを飲み込むと、自分ののどが酷く乾燥していて、痛いことにも気が付いた。


 テーブルの上にある水を飲んで喉を潤そうと思ってグラスを手に取ると、そのグラスの淵には。それが付いているところとは反対の方から飲んだのだが、中にも少しだけ入っていた。


 会計を適当に済ませ、香澄だったものを手に店を出る。


「……はぁ~……」


 何か口に出そうとしたが、ため息しか出ない。


 香澄だったものをみると、あの時の光景がフラッシュバックする。


 あの時の香澄はどんな表情をしていたのだろうか。私は彼女の顔を見ることができなかったのだ。彼女は、自分の体が烏の羽根になっていることに気が付けたのだろうか。


 もう、訊くすべも何もないが。


 ————そういえば、香澄はアレの正体を調べていたわね。それが分かれば、香澄も少しは救われるかしら…


 それから私は、「足が三本ある烏」について、調べてみることにした。


 香澄の言う通り、ネットの検索には引っかからなかった。


 だから、掲示板に投稿した。まぁ、誰も信じてはくれなかった。


 そんなことだろうとは思ってたし、信じてくれたからって協力してくれるとも、頼りになるとも限らない。


 これは現代科学で説明のつくことじゃあないし、ネットで探してもなかなか見つからない。ということは、考えてわかることでもない。


 近くにある大図書館で、日本から海外の烏にまつわる伝承について調べることにした。一通り読んだが、やはり調べても調べてもそれらしいことは何も出てこない。



 次はどのようにして調べようかと、考えているとあの「足が三本ある烏」を見かけた。


 よく観察していると、ぱっと見は普通の烏だが、足が三本ある。真ん中の足はよーく見ないと分からないくらいには薄い。だが、圧倒的に違う点として、“音がない”。


 鳴き声も、羽ばたくときの音も、何もかもがない。


 咄嗟とっさにスマホで動画を撮っていると、アレは周りを少し見渡し、私と目が合ってから飛び立っていった。


 その動画には、あの烏は映っていたが、三本目の足は映っていない。


 …いったいどういうことなのかしら…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る