好奇心は猫を殺す。
相対音感
第1話
「“足が三本ある
オープンテラスの席でランチをしていたら恋人の口からそんな言葉が出てきた。
私の恋人、
「う~ん、知らないわね。それがどうしたの?」
「いや、見ちゃったの。その“足が三本ある烏”を!」
「珍しいわね。あなたがそんな自分の目で見たことを話すのは。」
香澄は基本、自分が体験したことがないのであまりそういうことを話さない。が、今回は自分の身に起きたことを話すらしい。
「うん。それでさ、ネットで調べてみても“神話だ”とか、“太陽の使いだ”とか、そういうことが出てきてね、ちょっと図書館とかにも寄ってみたんだけど、なぁーんにも無くて、もうお手上げ。」
「もっと調べたりしなかったの?」
「無理! わたしそういうの向いてないの!」
「…はぁ、私も手伝ってあげるから、調べてみましょう。」
「本当!? ありがとう~!」
そんな話をされて気にならない訳が無い。“手伝ってあげる”というのは建前で、本当は私自身が気になるからである。
「見たのって1回だけなの?」
「いいや? 何回も。なんなら今も見えるかも。」
あら、そう何回も見るなら、案外調査は楽そうね。
「あ! 待って、あそこの電線にいる!」
「え⁉ どこなの!?」
彼女が指さす方向を見ると、確かに三本足の烏がいた。ただ、なんだか透けて見える。奥の背景がうっすら見えるというか、その烏がなんだか半透明だった。
「確かに…いるわね。」
「写真、写真…」
スマホを取り出そうとする香澄。私はその烏を見続けていた。その烏はこちらをじっと見つめていて、何か…睨んでいるような雰囲気だ。
——————カァ!
突然、その烏が鳴いた、ようだった。“ようだった”というのは実際に声が聞こえたわけではないのだが、そういう風に見えたのだ。
特段、気にするようなことではないのかもしれないが、あの烏がどういうものか分からないし、変な胸騒ぎというか、いやな予感がした。
「香澄! あれ、何かヤバいかもしれないわ!」
そう言って、彼女の手をぎゅっと掴んだ瞬間、彼女の手は音もたてず烏の羽根になった。
私は確かに彼女の手を掴んだのだが、手に残っているのは数枚の黒い羽根だけだ。
周りを見渡すと、彼女はもういなくなっていた。
今、私は怒りや悲しみで叫んでいるのだろうか。それとも、よくわからず、ただ立ち尽くしているだけなのだろうか。
気が付くと、あの烏はいなくなっていた。
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