第21話 設立説明会
港山高校は二学期を迎えた。生徒たちも続々と登校し始める。教室では久々に会った友人たちと、夏休みの出来事で盛り上がっていた。恒章も例外ではなかった。
「東山、レアカード持ってきたか?」
「ふっふっふ……、ご覧あれ」
恒章は、そう言ってカードを机の上に出した。
「おお!!」
場が興奮で湧いた。羨ましがる友人たちの様子に恒章は少しだけ誇らしげになった。その時、南野七菜香が同じギャル系統の友人と一緒に教室に戻ってきた。恒章を見つけた途端、声をかけてきた。
「東山、お客さんだよー」
「ここは家じゃないっての」
そう言って、恒章は廊下へと出ていった。そして、残された三人は、七菜香を認めると元気よく挨拶をした。
「姐御、あざっす!」
「おっす、足立と田島と山口!」
そして七菜香が返した後、彼女たちは教室の奥の方へと歩いていった。
「とうとう俺たちにも……」
「ああ、ギャルと話すなんて……」
「夢みたいだ……」
カード仲間たちが、今起こった現実を受け入れられずポワポワしていた。田島は自分の頬をつねりながら、現実であることを再認識していた。ギャルたちはそんな彼らの様子を見て不思議そうにしていた。
「あいつら、どうしたんだろ?」
「そういえば七菜香ってあいつらと仲良かったっけ?」
ギャルのうちの一人が、七菜香に尋ねた。
「前にちょっとね」
「まさかパシッたの?」
「さすがにしないよ!」
七菜香は即座に否定した。二人は、だよねー。と笑いながら答えた。
「実はちょっと遊戯王で薙ぎ倒しちゃって」
「七菜香って意外とそういうとこあるよねー」
「ギャルのデュエリストやべー」
その一方、廊下に恒章は出た恒章は、呼び出した本人を探していた。辺りを見渡すと、手招きをする和信がいた。
「なんだ、お前か」
恒章は少し不機嫌そうに答えた。
「今日遅くなるから買い出しよろしく」
和信はそう言って、夕食代のお金を渡す。今日は、両親が旅行で不在だ。そういう時は、兄弟で家事を分担することになっていた。
「お前、今日夕食作るんじゃないのかよ」
「ちょっと用事があるから……、悪いけど頼んだ」
和信はそう言って恒章にお金を渡した。不服ながらも受け取る恒章だったが、その時スマホの通知が鳴る。それは、明日の夕食のために作るはずのカレーの材料が届くということだった。
「仕方ない……、今日の夕飯は覚悟しておくがいいさ」
「憎しみを込めたなんちゃらとか、厨二病料理はやめろよ……」
不敵な笑みを返す恒章に、和信は若干引き気味になりながら、自分の教室へと帰っていった。
そして翌る日、一組では和信が珍しく机の上で不貞寝していた。体調が悪いわけではない。その原因は、和信自身がなんとなくわかっている。しかし、少し苛立ちを隠せずにいた。土呂が教室に入ってくると、隣の席の和信に声をかける。おはようとお互いに挨拶を交わすと、土呂は席に着いた。
「ひーやん、珍しく落ち込んでるな」
「弟の作った料理がね……。少しお腹痛い……かな……」
「何食べたん?」
不思議そうに土呂が尋ねた。和信はなぜか少し赤らめながらそっぽを向いて、こう答えた。
「漆黒のカレーライス、タバスコ入り」
思わず口に手を当てる土呂であったが、思わず失笑してしまった。和信は少し睨みを効かせる。土呂は慌ててごめんと謝る。すると、同じクラスの亀田がやってきた。
「東山がそんな厨二な発言するとはな……」
「それは弟に物申してくれ。僕はむしろ被害者だよ」
和信は膨れて言い返した。亀田は和信の机にあった紙を見た。昨日の部活動説明会についての紙だった。
「そういえば、なんか説明会が大荒れしたらしいね」
和信は黙って頷く。
「お腹痛いのって……」
「それもあるよ」
深く息を吐いて、和信は窓から空を見上げた。
「なんか大変なことになっちゃったなあ……」
「何があったん?」
*
和信は説明会の会場となる教室に着くと、入口で見覚えのある女生徒を見つけた隣のクラスで、同じ学級委員の中山美空だった。
「あれ、中山さんどうしたの?」
「あっ、東山くん」
美空が和信に手を振った。二人は教室に入ると空いている座席についた。
「紙芝居の活動続けたくて。東山くんは舞台?」
「そうそう」
辺りを見渡すと続々と生徒たちが入ってくる。上履きを見ると、緑色が学年色である二年生が多く入っていた。
「やっぱり二年生が多いね」
「三年生は受験で引退しているしなあ」
そうしているうちに、開始時間となった。生徒会長の挨拶とともに教頭からの話が始まった。
「港山の先生と課外活動についてお話をしました。その結果ですが、やはり課外活動も高校生活には欠かせないものであるという結論になりました」
二年生の生徒たちから拍手が巻き起こる。やはりどの部活動も、活動再開を待ち望んでいるらしく、よっしゃという声も聞こえてくる。一年生の二人も続けて拍手をした。
「ですが一学期にあの不祥事があった以上、各部には今まで以上に活動に真摯に取り組んでいただきたい。学校の名前を背負って活動することについて、どのように活動するべきか、今一度よく考えてください」
一斉に馬がしずまってしまう。そんな彼らに教頭は続けてこう言い放った。
「設立条件を設けるとともに審査を行うことにします。本校の部活動として活動する場合は、申請書類を必ず提出して審査を受けてください。所定の条件を満たし、審査が通った部活のみ活動を認めます。提出のない部の活動は認めません」
生徒たちがざわつき始める。部活動を行うのに、書類を作らなければならない。そして、審査に通らなければ活動してはいけない。そのような学校の判断に生徒たちは反発していた。
「生徒がやることじゃないと思います!」
「活動を制限する気ですか!」
生徒たちが口々に文句を言う中、教頭は一喝し、その場を沈めた。ピタッと静かになった後、教頭は続けてこう言った。
「静かに。この港山高校は『文武両道』を掲げています。そして部活動は、生徒たちが主体となって行うべきです。練習や大会、他校との交流など今までやってきたことをちゃんと計画してきているのであれば簡単なことです」
そして一拍おいて、こう締めた。
「学校に許可なく勝手に活動した場合、懲罰対象になりますので、くれぐれもご注意を」
その後、生徒会長より各部が行うべき手続きの流れについて、説明がなされた。設立と活動の条件、質問の時間もあったが、誰も手を上げることができなかった。
説明会が終わると、参加者は会場を退出していった。その様子は、みな少し俯きながらだった。思いの外、条件は厳しく大変だったのだ。
*
「やっぱり一筋縄には行かないね」
亀田はそう言って和信の肩にポンと手を置く。
「そういや、要件はなんやったの?」
「えっとね……」
和信は資料を出して、要件を見た。そこには、部員を五人以上集めること。大会に出場して結果を残すこと。学校や地域に還元する活動を含めること。全員が赤点を取っていないこと。顧問が一名以上置くこと。地域移行の申し出があれば、外部の顧問も一名置くことと書いてあった。
「地域移行ってなんや?」
「簡単に言えば、学校の先生がつけない時に、外部から指導してくれるコーチを呼んでこいって話」
「世知辛いなあ……、教員ってものは……」
亀田は思わず腕を組んで頷いていた。そして土呂もその意見に同意していた。すると、思い出したかのように土呂が和信に尋ねた。
「それはそれとして、カレーの代償はどうなったん? 」
「大事にしていたレアカードを取り上げて、今日換金しに行く」
「東山って意外とえげつないな」
亀田が若干引いている中、和信は、そのカードが入った封筒を掲げる。土呂はその封筒の中を覗くと、あることに気づいたようだった。
「先輩たちもいないし、部員もいないし、どうしたもんか……」
「ひーやん、カメやん」
土呂が二人に呼びかける。二人は彼の表情に、少し息を飲んでいた。土呂の表情は、少し企んでそうな悪い顔をしていた。
「いいこと思いついたで」
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