第13話 本番を迎え

 土曜日を迎え、高校近くにある公民館に二人の女子生徒がいた。

「美空、おはよ」

「ななちゃん、おはよ」

二人は中に入り、控室へと向かう。

「そういえば、東山は? 」

「まだ来てないみたいね……。まあ、子どもたちの案内だから大丈夫だよ」

美空の言葉に、ため息を交えながらも七菜香は

「あいつのことだしね……」

と返すしかなかった。

 やがて二人は小さな部屋を借り、会場設営の準備を始める。七菜香は会場の飾りつけや椅子のセッティング、美空は紙芝居とその舞台、マイクの調整などを行っていた。ある程度の準備が終わると、互いに椅子の位置やマイクの音量などのチェックをし始める。ちょっとした微調整を終えた時、開場三十分前を迎えていた。

 しかし、依然として、かの男子生徒の姿は見えなかった。

「さすがに、遅くない……? 準備全部終わっちゃったんだけど……」

「電車止まってるのかな……」

すると外からガヤガヤと声が聞こえてきた。見覚えのある集団がゾロゾロと隣の大きな会議室へ入っていった。その時、恒章のような姿を見つけた。

「あっ、あいつ……! 」

七菜香は、思わず部屋へ乗り込もうとする。しかし、美空があることに気づいた。

「待ってななちゃん、お兄ちゃんの方だよ」

「えっ……、あっ本当だ。舞台創造部の人たちだ……」

「ちょっと聞いてみるね」

 美空は、舞台創造部のところへ行き、和信に声をかける。

「東山くん? 」

「中山さん、奇遇だね。ってそうか、今日は紙芝居の日だったっけ」

「うん、ここでやるの。それで弟くん……、いや恒章くんも手伝いに来る予定だったんだけど……」

和信が少し驚きを隠せぬ表情を見せる。

「あいつが手伝うなんて意外だなあ……さっき裏口で見かけたのって……」

「裏口?」

七菜香は急いで階段を下りていく。そして裏口の方から、

「ひーがーしーやーまー!」

と甲高い声がこだましていた。



 「すみません……」

恒章は土下座させられていた。七菜香に首根っこ掴まれて、会場へ連れてこられた恒章は、何も言えなかった。

「遅刻とはいい度胸じゃない?」

「いや、新作のゲームコース作ってたから……。昨日の夜は、作る約束だったし……」

二人の間に暗雲が立ち込める。しかし、その状況を打破したのは美空だった。

「ななちゃん、東山くん。後にしよ。もうすぐ子どもたち来ちゃうよ! 」

七菜香ははっとしてゴメンと手を合わせて謝った。七菜香は、公民館の入口まで下りていき、子どもたちを案内しに向かった。

「僕は要らないかな……」

恒章は申し訳なさそうに呟く。

「東山くんは、上がってきた子どもたちを席に誘導してあげてね」

「はい」

 開場時間となった。美空は前で少し緊張の面持ちで、恒章は少し気だるげで軽くあくびをしながら、来るはずである子どもたちを迎えようとしていた。刻一刻と開演時間は迫ってくる。しかし、一人も来る気配がなかった。

「誰も来ないね……」

恒章の言葉に、美空は言葉を返さなかった。まだ大丈夫。そう心の中で言い聞かせていたのだ。

 しかし現実とは無情なもので、ついに開演時間を迎えてしまった。その中に、子どもたちの姿は一人もいなかった。

「どうして……、あれだけSNSでも告知はしていたのに……」

美空は肩を落とす。恒章がSNSを開く。紙芝居の告知アカウントからの通知だった。それを開くと恒章はあることに気づいた。同時に、七菜香が戻ってきた。

「……」

「ななちゃん……」

状況を見て、複雑な面持ちで七菜香は言った。

「実はね、舞台創造部と市民劇団との合同ワークショップを一階でやってて、みんなそっちに流れちゃったみたい……」

美空は言葉を失い、目に涙を溜め始める。しかし、七菜香は表情を変えた。

「でもね……」

七菜香の後ろには、五人の子どもたちがいた。

「その子たち、どうしたの? 」

「そのワークショップの人数制限であふれちゃったり、申し込みせずに飛び入りで参加しようとしてできなかったりした子どもたちがいたからさ。こっちに連れてきたよ」

美空は子どもたちの姿を見て、涙を拭き、子どもたちにこう言った。

「きょ、今日は来てくれてありがとう! 空いてる席に座ってね!」

「はーい」

子どもたちは部屋に入るや、縦横無尽に走り回った。そして、七菜香は恒章の耳元でこう告げた。

「ほら、子どもたちを誘導して座らせて! 遅れた分、仕事してもらうからね! 」

恒章は、多少仕方なくであるが、

「はい、じゃあみんな、お兄さんのところまで来てくださいねー」

と言って、子どもたちを集めると、一人ずつ前の列の椅子に順々に座らせていった。その後、誰も廊下にいないことを確認した七菜香は、ゆっくりとドアを閉めた。

「それでは、ゆっくり見ていってください! 『銀河のまち』!」

はっきりとした美空の声が、響いたのであった。

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