第14話 活動休止
「ありがとうございました」
紙芝居を終えた恒章は、子どもたちを見送っていた。
「おにいちゃん、ありがとう」
久しぶりに感謝の言葉を向けられた恒章は、悪い気はしなかった。そして、最後の子どもを見送った恒章は、部屋に戻って片づけを手伝う。
美空と七菜香からもお礼を言われると、片づけはいいから帰るように促された。その言葉に甘えた恒章は二人と別れ、駅へと向かう。
公民館駅から電車に乗り、ワイヤレスイヤホンでゲーム実況の動画配信を視聴する恒章。ターミナル駅となる港山駅に到着する放送が流れたとき、ふとスマホを見ると、画面の時計は午後一時前を示していた。そしてすかさず、カードゲーム仲間のグループチャットに投稿する。
『合流OK?』
『おつかれ~』
『早く来い!』
恒章は小さくガッツポーズをすると、列車を下りる準備をした。席を立ち上がると、目の前を和信の姿が横切った。家とは逆方向に向かっている和信を不思議に思ったが、すぐさま恒章はカードショップへと向かった。
「遅いぞ、東山!」
「ごめんごめん」
カードゲームショップには、すでに先客の三人組がいた。みな高校で知り合った同じ六組のクラスメイトで、かの南野女史に惨敗を喫した者たちであった。
「早くデッキ用意しろ!」
「はいはい……、よっと」
恒章は腰かけると、デッキを準備してタイマンのごとく試合のゴングを鳴らした。
*
翌朝、緊急の全校集会が体育館で開かれることになったのだ。教頭先生が壇上に上がると、開口一番こう告げたのだった。
「校長先生は、おととい退職されました」
ざわつく体育館。そんな生徒たちを制止させた教頭から、続けて経緯が離されることになった。
昨日、校長が本校の生徒に痴漢した疑いで逮捕されたこと。しかし被害者とされた生徒が痴漢冤罪をはたらいたことによること。学校に届け出のない課外活動で、薬物などの犯罪に手を染めていたこと。冤罪のショックで校長が精神的なショックでやむなく退職に至ったことの説明があった。
「このようなことがあった以上、学校としては対策を取らなくてはなりません」
そして、教頭は続けてこう言った。
「今日から年末までの間、課外活動及び各種大会の新規エントリーは中止、今参加している大会やコンクールについても、すべて辞退とする形をとします」
非難轟々となる体育館。しかし教頭は、生徒を静止させ言葉を続ける。
「また、我が校の名前を使った非公式の活動も多々あるようですが、こちらについては全面的に禁止とします」
*
全校集会が終わった後、教室内は騒然としていた。その後、先生たちは緊急の職員会議で、一時間ほど教室で待機することとなったが、生徒たちは指示などお構いなしに、文句を言っていた。
「ななちゃん……」
美空が六組の廊下から七菜香を呼び止めた。
「学校の名前使って紙芝居やっちゃダメって言われちゃった……」
「まじで?! 」
「うん、しばらくそういう活動も禁止だって」
はぁ?! と思わず声を荒らげながら七菜香は頭を抱えた。恒章は、彼女の狼狽に思わず目を覚ましてしまった。気だるそうに組んだ腕の上に顎を乗せる恒章。すると、カード仲間の一人が恒章に声をかけた。
「今度のカードゲーム大会のエントリーも断られたぞ! 東山」
「なんだって!」
恒章は、驚いてカード仲間たちの方を振り向いた。
「エントリーしたショップから連絡があって、学校からしばらく出禁にしてくれって話になったらしい」
課外活動もどんどん制限されていく現状に、恒章は啞然とした。
「ツネさん」
前の席から声がした。最近、ケンカして一時期口を利かなかった福徳だった。
「舞台創造部も活動休止だって」
「フクちゃん、何かしたの?」
「僕じゃないよ。間違ってビデオカメラを壊したからって」
「なんか、揚げ足取って徹底的に潰そうとしているみたいだ……」
他の部活動でも、相次いで活動停止を言い渡されているようだった。恒章は思わずため息を吐く。すると、担任の奥田先生がやってきた。
「東山、ちょっといいか? 」
「お前、また隠れてゲームやっただろ? 」
「やってないよ! 」
福徳のツッコミに返しながら、恒章は廊下へと出ていった。
「すまんが、進路指導室まで来てくれ」
*
「今回の騒動について、君のお兄さんから何か聞いていないかい? 」
「いえ……、特には何も……」
「そうか……。とりあえず弟の君だから言うが……」
先生の話によると、兄の和信が偶然、例の事件を目撃してしまったらしい。例の生徒の仲間がSNSにアップした事件の動画に、たまたまその様子が映り込んでしまい、関与が疑われたということらしかった。
「今日は保健室に行ってもらっているが、何も話そうとしないんだ。弟の君ならもしかしたらと思ったんだが……」
「すみません、お互い話とかはしないので……」
奥田先生は、双子の弟である恒章にも被害があるかもしれない。何かあったら相談してくれと告げ、進路指導室から退出させた。
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