第12話 作ってみた

 とある日の空き教室。恒章は同じクラスの友人三人とカフェテリアで、カードゲームもとい決闘デュエルを繰り広げていた。

「俺のターン! ドロー……」

山札から一枚引く恒章。そして静かに不敵な笑みを浮かべながら――。

「ターンエンドだ」

「何も出さないんかい!」

他の三人は、思わずずっこける。恒章はすました顔をして決闘を続ける。

「仕方ないな。そしたら、このカードを……」

「ひーがーしーやーまー!」

声のする方を振り向くと、見覚えのあるギャルが走ってこちらに向かってくる。

「あれは、南野氏では……」

「というか東山、いつからあのギャルと接点を……」

オタクとギャル。大半の人であれば、別世界の住人であろう人種。いやカテゴリー。ほかの三人は、東山がJK、ギャルに追われているという現実に、ただただ呆然とするだけだった。

「一時間も待たせやがってー!」

「逃げるわ。バイバイ」

恒章は、カフェテリアから脱走を試みた。ガシッと掴まれる身体。身動きが取れない恒章。

「な、何をしやがる!」

なんと、三人が彼を取り押さえていたのだ。

「まだ決闘は終わってないぜ、この野郎……」

「勝ち逃げは許すまじ……東山氏……」

「ギャルに現を抜かすとは、この裏切り者め……」

恒章は必死に三人を剝がそうとするが、ただ南野が迫ってくるのを待つばかりとなった。

「おっ、三人ともナイス!」

その刹那、南野は恒章のお腹を目掛けて、ドロップキックをかました。

「あああああ!」

「うるさいぞ! 静かにしろ!」

食堂のシェフに怒鳴られる五人。食堂内にこだまする恒章の悲鳴とテーブルが倒れる音。ほかの生徒たちは、彼らの方を振り向くばかりだった。

「すみませーん」

南野は、軽くスカートを払うと、恒章を襟を掴む。

「じゃ、お借りしまーす」

「いや、困るですよ。決闘はまだ終わってないですよ」

仲間の一人が南野に言う。そして、南野はゆっくり振り返ってこう言った。

「じゃあ……しよっか」



「無念……」

「南野ってなんでこんなに強いんだよ……」

「これでも学童でちびっこと戦ってるからねー」

恒章を含めた四人は、南野に敗北を喫し、項垂れていた。

「じゃ、約束通り。東山をちょっと借りるねー。大丈夫、大丈夫、煮たり焼いたりしないから!」

南野はそう言って、恒章を連行していった。

「僕は決闘がまだ……」

恒章は振り返って、決闘仲間たちを見つめるも。三人は、白いハンカチを高く上げて振るなり、泣くような素振りをして見送った。

「なんでバレたんだよ……」

 二人が活動場所の空き教室に入ると、すでに中山の姿があった。

「遅いよ! もう二時間も待たせて!」

「えっ?! 中山さん、来れなかったはずじゃ……」

恒章は、少し慌てた様子で尋ねる。一方、南野は呑気に答える。

「いやあ、東山を捕獲するついでに、決闘を少々……」

中山の表情が少し青ざめた。

「決闘って犯罪なんだよ……! 女の子に手を出したの……?」

「カードゲームのことだから、大丈夫」

恒章の言葉に、中山は少し安堵したようだった。その後、思い出したかのように隣にあった大きな包みを机の上にあげて解いた。

「一応、土曜日の紙芝居。なんとか七菜香ちゃんと作れたよ」

「いやあ、何とかなってよかった!」

二人は、舞台に入れられた紙芝居を見て盛り上がる。

「東山くんには、当日ビラ配りをお願いしてもいいかな」

恒章は中山からビラが手渡された。タイトルには『銀河のまち』とつけられていた。生徒の創作童話を紙芝居化したという宣伝文句で子どもたちに紹介するのだ。しかし、ある部分に彼は気づいた。

「さく・ひがしやま つねあき……。ってどういうこと……? 」

「東山くんのメモ帳に書いてあった詩みたいなの。あれをちょっと物語に変えてみたんだ」

「恥ずかしい……」

普段の恒章であれば、勝手に使われると怒りが先に現れるのだが、今回は違った。顔を思わず赤らめながら覆っていたのだった。

「読んでみていい作品だなって思ったから、埋もれたままじゃもったいないってのもあって。ごめんね……」

恒章は、恥ずかしさのあまり、ゆっくりと荷物を抱えて教室から出ていこうとした。

「これから美空が練習するから、一回付き合ってあげてよ」

南野が恒章に言葉をかける。恒章は背を向けつつ止まったまま、

「……し、仕方ないなあ」

と言っては席に戻って、中山の紙芝居劇を見ることとなった。

「『銀河のまち』。さく・ひがしやま つねあき。え・みなみの ななか。これは、ちょっと昔のこと—―」



「こうして、男の子と女の子は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」

――パチパチパチパチ。

 中山の紙芝居劇に、恒章はいつの間にか引き込まれていた。南野が描いた絵が情景を一層引き立たせているのもあるが、自分があの日、クラスメイトの福徳に書いたあの詩が、別の形をもって生まれていることに驚きを隠せなかった。

「じゃ、これで解散ね。土曜日、現地集合でよろしくね。東山は、当日宣伝よろしく!」

「お疲れ様でした」

そう言って、二人は教室から出ていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る