第2話 入学式
港山高校。県内でも有名な進学校である。公立校でありながら、自由な校風かつ有名大学への進学率も高い。そんな高校に進学する双子、東山和信と東山恒章の兄弟は、今日、入学式を迎えた。入学式の看板の前で両親に促される二人は、ぎこちなく看板を挟んで並ぶ。
「ほら、ニコッ」
母親の言葉にぎこちなく笑う弟・恒章。その反面、一瞬で満面の笑みを見せる兄・和信。父親はカメラを向けシャッターを押した。
「よし、それじゃあ行ってこい」
こうして、両親は入学式の受付へと向かった。兄の和信は、それじゃ。と告げ、すぐさま昇降口へ向かっていった。
クラスを見ると、和信は一組二十五番。恒章は六組三十二番だった。双子だったのもあってか、和信は新入生代表として生徒挨拶があるため、これから打ち合わせがあるらしい。和信は近くの教員に声をかけると、そのまま職員室へと向かっていった。
「今のって、あの東山和信じゃね?」
「うっそ、この高校なの?!」
同じ新入生が和信のことに気がついた。少々騒ぎになってきたため、恒章はささっと名簿を受け取って、自分のクラスへ向かった。
「六組三十二番、六組三十二番……」
恒章は六組の教室の前に来ると、座席表で自分の席を探した。窓側から二列目の一番後ろ。自分で思うのもなんだが、大きい図体が迷惑かけない席であったことに安どしていた。
「あれ、よくテレビで見る東山くんかな?」
「ちょっと話しかけてみなよ!」
兄と間違えて声をかけられそうになる。とりあえず恒章は、自分の教室へ逃げるように駆け込む。理由はないけれど、なんとなく兄と重ねられるのが嫌だった。自分の席に着くと、思わずため息をついた。
「ふーっ」
なんとか逃げ切った。安堵するも刹那、クラス中の視線が、恒章に刺さっているのを感じた。
「もしかして子役の……?」
「いや……、ただの一般人です……。双子の弟です……」
「え、弟……?」
「す、すみません……」
恒章は顔を赤らめながら、顔を伏せてしまった。
『恥ずかしいよお……』
その後は何事もなかったかのように、クラスのみんなはまた周りと話し始めた。恒章は机に顔を伏せ、ただ、入学式前のホームルームが始まるまでひたすら動くことができず、ただ一刻とその場をやりすごすことで精いっぱいだった。
「おーい」
恒章はふと肩をたたかれ、むくりと顔を上げた。
「もうすぐ移動だって」
「あ、ありがとうございます……」
恒章は、クラスメイトに促されながらも、急いで廊下に出た。クラス全員が揃ったのを確認され、まとまって講堂へと向かった。
入学式本番。この港山高校には大きな講堂があり、およそ二千席あまりの劇場椅子が設置されている。新入生は、入場の合図がなされた後、前方の座席に座らされた。国歌斉唱や祝辞などある程度のおきまりの流れを聞いているだけだった。
「新入生代表、東山和信」
「はい」
見覚えのある巨体が立ち上がる。そして、周囲もざわつく。そんな周りの騒がしさをもろともせず、和信は堂々と壇上へと上がった。隣の席の男子が、恒章に小声で話しかけた。さっき恒章に声をかけた男子生徒だった。
「あれ、親戚とか?」
「双子です」
ばつの悪そうな顔をしながらも黙ってうなずく恒章。
「そうなんだ」
そういって、男子生徒が身体を舞台へ向き直す。舞台上の和信は、淡々と新入生代表挨拶をこなしていく。次第に挨拶を終え、文書を校長へ渡すと、盛大な拍手と共に座席へ戻っていった。
その後、入学式は滞りなく終わり、それぞれが教室に戻った。この後には、ホームルームで翌日の時程を説明され、解散となった。恒章は、荷物をリュックに入れて教科書を受け取りに行った。
「東山くんだっけ?」
さっきの入学式で話しかけた男子生徒だった。
「あ、福徳くんか」
「せっかくだから、一緒に行かへん?」
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