第58話 反社勢力の運命
丘頭警部が久しぶりに事務所に手土産を持ってやってきた。
「こんにちわ~、居るぅ~」
本来の明るい声だ。
「あいよ~」一心は返事をし、他の面子は団子の匂いを感じて事務所に姿を現した。
静は真っすぐお茶を淹れに奥へ。
「はい、いつもの団子」
丘頭警部が言うより早く
「ご馳走様~」口々に言ってお茶が出る前にかぶり付く。
「で、どうなった?」
質問する一心に丘頭警部が笑顔で答えた。
「えぇお陰で本庁の組織犯罪対策課が縦上獄生会に入ってボスの縦上崇城(たてがみ・そうじょう)六十八歳を誘拐、殺人教唆、銃刀法違反、脅迫、傷害などの罪で逮捕したわよ。村岩専務の妻百花も売春防止法違反などで逮捕したわ」と、丘頭警部は言って「村岩吉郎も売春防止法違反で逮捕された」と続けた。
「銃刀法って、あぁ誘拐犯が持ってた拳銃の出何処は縦上獄生会ってことか?」と、数馬。
「そう、家宅捜査で日本刀とか拳銃がごろごろ出てきたって聞いたわ」
丘頭警部はあきれ顔で言った。
「そしたら官僚とかゼネコンの部課長とかは罪にならんのか?」と一心。
「えぇ未成年者が百花の店にはいなかったのよ。そして売春は違法行為だけど相手が成人女性の場合は買う側に罰条がないのよ。まして彼らはお金を払ってないでしょ」と警部。
「あ~そう言う事か。知らなかったじゃ」
一心がそう言うと「なんやて、一心、あんたはん買いはる積りどすねんか?」
静が穏やかな口調だがボクサーの目付きになっている。
「いやいや、そんなこと考えもしてない」冷や汗をだらだら流しながら必死に一心は否定する。
静はそれ以上言わなかったが一心は何とか雰囲気を変えたくて思いつくままの言葉を口にした。
「単なる一会社の問題かと思ったら、とんでもない事件だったんだな」
誰も何も言わないので一心は続けた。
「俺の腹殴ったのは、鬼島か? 里見?」
「それは里見よ。彼はプロボクサーになりたかったけど試験に落ちたそうよ」と警部。
「それだも痛いさなぁ。だけど静にやられたってのもわかるわ。ははは」
「そうね、彼言ってた、俺の顎の骨砕くなんて、あの女プロボクサーかって、ふふふ。それほど静のパンチは凄いってことね。……一心は特に気を付けないとね」
そう言って丘頭警部はにんまりとする。
一心は静に目をやり汗を流して「おぅ気ぃつけま~す」素直に返事をした。
静は静かに一心を見詰めて微笑んでいる……。
――あ~、あの恐ろしい微笑み……悪魔の微笑み……心臓が激しく脈打ち口から出てきそうだ……
「それで、鳥池常務を殺害した状況は一心の推理どうりだったわ。裏も取った。専務の妻百花は端から会社の金を引出すために村岩専務に近づいたようよ。常務が横領したのも会の指示を受けた里見と鬼島が甲賀を言いくるめて、鳥池常務を口説いたらしいし。具体的には縦上獄生会の担当税理士が高知課長にやり方を教えたと言ってるわ。その税理士も取調べを受けてる。
結局、鳥池常務が縦上獄生会と繋がりがあったことで、對田建設工業(株)を獄生会の資金源とするべく組織ぐるみで様々な裏工作をしてきたという事よ」
丘頭警部が對田建設工業(株)に関わる一連の事件を纏めた。
「それが高知課長の殺害と少女誘拐によって計画に綻びが生じ、その傷口が広がって計画が破綻し獄生会の命取りになってしまったというお粗末な話になった訳だ」
一心がそう言って最後を締めた。
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