第51話 真相解明の糸口
「對田さん、行方不明の帳簿なんですけど、誘拐犯から受け取ったんじゃないですか?」
約束の日、社長室にある来客用のソファに腰掛けるなり質問した。
「いや、わたしの手元にはありませんよ。どうしてそう思うんですか?」
「いえね、社長さんが、二重帳簿というより脱税と言った方が良いでしょうか、に関わっていないとしても会社の問題ですから、自分は知らなかったでは済みませんよね。であれば、金を出しても帳簿を手に入れ白黒をはっきりさせる必要がある、と判断したんじゃないかなぁって思ったんですよ」
「なるほど、あなたの意見には説得力があるが、無いものは無いんだ」
對田は自席から立ち上がって一心に対座し煙草を咥え泰然自若を装っている。
「ほ~、それを隠していると社長さんも共犯になっちゃいますよ、良いんですか? それに帳簿はデータとして保管されていてそれは既に警察の手に渡ってます。無いのは現物だけなんですよ。警察はいずれここに来るでしょう。その時、帳簿の有る無しじゃなくって、中身について追及されますよ。それなら先に帳簿を警察に有ることを知らせ、部下のやった顛末を社長がつけると言う方が会社にとって良いんじゃないかと思うんですがねぇ」
一心は對田が自ら認めるよう促したのだが……。
「なるほど、ところで探偵さんは何故そんな話をわざわざわたしに?」
――なかなか話に乗ってこない、流石は社長と言ったところか。
「弥生さんと正二郎さんが心配して俺に調査してくれって言ってきたんですよ。健気にね。彼らの気持を考えてさ余計な事なんですが言うだけは言ってみようと思って……そう言うことです」
「そう、弥生が……」
社長は感慨深げに腕組みをし視線を窓外へ走らせた。
「あとの判断はお任せします。……それとこのキーホルダーは鳥池常務のじゃありませんか?」
一心はホテルの地下駐車場で拾ったキーホルダーの写真を見せる。
社長はしばらく見入って
「……あ~これ、わたしが子供の時に持っていたやつで、溺れていた子供が泣き止まないんであげたやつじゃないかなぁ……これどこで見つけた?」
「常務が誘拐犯と帳簿のやり取りをしたという現場です」
「何故これを常務が持っていたんだ?」
「いえ、分かりません。……ひょっとして誘拐犯が持っていたのかもしれませんね」
「誘拐犯は何て言う名前?」
「えっ、いや~まだ警察から教えられてないんで分かんないんですが……社長がそれをあげた子の名前覚えてます?」
「いや、それは知らないんだ……あっ、ただ溺れた時『さとる』って呼ばれてたなぁ」
「そうですか、ありがとうございます」
一心はそのあと少し雑談をし、辞去したその足で浅草署へ向かった。
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