第49話 自白
その日の夕方、丘頭警部から、
「あのメディアの写真を誘拐犯に見せて追及したら、一味は誘拐を計画したのが鳥池常務だと白状したわ」と知らせてきた。
「鳥池常務は帳簿を操作して利益を誤魔化し浮いた金を自分の懐に入れていた。その為に二重帳簿を作成することにしたようよ。当然一人じゃ出来ないから高知課長もグルだったわけよ、だからその帳簿を隠し持っていたって訳」と、丘頭警部。
「でもよ、社長が課長と社外で帳簿の話をしてたって証言あったぞ」
一心が疑問をぶつけると「あぁそれは、社長が何となく疑問を感じて課長をじんわり問い詰めていたらしいわよ。告発とかじゃなくって何とか止めさせようとしたんじゃないかな。本人が話してくれると良いんだけど……今、捜査員が社長のとこへ行って話を訊いてるのよ。期待はしてないんだけど一応ね」
「そっかぁ、すると社長は少なくとも悪事に加担していなかったってことだな」
――散々疑ったが……弥生ちゃんの為にまぁ良かった。
「当然常務だけでなく高知課長にも金は渡ってたんだよな?」
「そうだと思うわ、としか言えないわねぇ。なんせ、二人とも死んじゃったから会社の損害額は算出できるけどその先は帳簿外の話だから分からないのよ」
「あぁ、そっかあしょうがないよな……その話に専務はまったく関わっていないんだな?」
一心は念押しで訊いてみる。
「えぇ犯人から専務の名前はでなかったわ」
「そっか、これから社長さんはその尻ぬぐいで大変だな……」
「そうねぇ、そうそう専務と言えば、贈収賄で大変じゃないかな? 一心も写真見たでしょ?」と、丘頭警部が言う。
「えっ、いや、そっちのファイル、そう言えば開いてなかった。そうだ、それがあったな……」
一心は確認漏れを認めるしかなかった。
――あ~そうだった。失敗した。でも警察が確認出来たら敢えて俺らが確認する必要なんてあるのか?
「そう言えば、誘拐犯に渡した帳簿は? 回収できたのか?」
「いや、それが犯人は常務に渡したって言うのよ。だから知らないって。そのあと常務が死んじゃって金を貰えなくなったので社長に電話を入れたって話してるわ。……だから分からないのよ」
「えっ、そしたら二重帳簿の証明が出来ないってことになるよな?」
「そう言う事、常務が死んじゃったから、常務を殺した人間が持ってる可能性はある」
「その犯人は誘拐犯じゃないのか?」
「今は、違うと言ってるのよ。だけど私は誘拐犯が常務と帳簿の受け渡しの際、揉めて殺害したと考えてるの、今はその証拠を探してる」
「ほ~、その受け渡しは何処で?」
「目黒のスチュワート・キングホテルって高級ホテルの地下駐車場だって言ってるわ」
「そこは鑑識入ってるんだよな?」
「勿論、何も出なかった。監視カメラには午後三時に犯人の車が、三時十五分に常務の車が駐車場に入って、午後三時三十三分二台の車が相次いで出ていくのが確認されてる」
「出ていくとき常務が運転してたのか?」
「顔ははっきり見えなかったんだけど帽子やコートは入った時と同じだったわよ」
「誘拐犯は何人乗ってたんだ?」
「三人よ、それがどうした?」
「帰りもか?」
「えっ、帰りは斜め後ろから写ってたから、ちょっと待って今確認させる…………後部座席に人乗ってない」
「ってことは、一人どこ行ったんだ?」
「わかった。ありがとう、追及する……それと、高知洋子さんを署に呼んで写真を見せて事情を訊いてるんだけど、殺害を認める自供を始めたようよ……」
「おーそうか、事件の一つはそれで解決だな」
一心は電話を切ったあと静に声を掛けた。
「静、ちょっと目黒のスチュワート・キングホテルへ行ってみないか?」
誘拐犯と鳥池常務が帳簿の受け渡しをした現場を自分の目で見ないと気が済まないのだ。
「へぇ、あそこのレストランは確か美味しくて有名どしたなぁ……」
静は微笑みながら一心をじろりと見詰める。
「えっ、あ~そうなの……」
――やべぇ、財布の中身確認しとかなくっちゃ……想定外の出費だぁ、小遣い無くなるぅ……
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