第41話 逼迫
一心は高知課長が家族や美富と旅行で行った旅館、ホテルや貸室や貸ロッカー、トランクルームなど帳簿を保管できそうな場所を思いつく限り虱潰しに当たらせた。
午後九時、残り十九時間。
夜は専らホテルに電話をかけまくった。
一心が思いついて駅の一時預かりにも電話を入れる。
日付が替わって三時になった。
「一心、高知課長の口座の取引履歴見たらトランクルームを借りてたみたいだぞ。どこのだか分からんけど当たってみる必要あるんじゃないか?」と、美紗。
「おー一応当たらせてるが見つからないんだ」
成果のないまま朝が来た。八時。残り八時間だ。
「ただいまぁ……」
疲れ切った声の数馬と一助が帰ってきた。一晩中ラブホテルや居酒屋など開いている浅草から向島にかけての一帯で、高知課長の自宅と会社を結ぶライン沿いの店に預かりものが無いか訊いて回っていたのだ。
「一心、次は何処へ行ったら良い?」と、数馬。
「少し休め、疲れたろう」
一心が言うと「ばか、後八時間しかないんだ、休んでられないだろ!」
数馬も一助もイライラしているようだ。
「せやかて、ままも食べておへんのやろ? 食べはらんとまともな仕事できへんで」
そう言って静がテーブルに焼肉丼を並べる。
「え~、朝から焼肉かよ~」
言葉とは裏腹に数馬も一助もにこっとしてすかさずかぶり付く。
「ところで数馬、預かりだとかロッカーだとか誰の名前で訊いて回ったんだ?」
美紗がそう言ったので一心もはっとした。
「おい、数馬! まさかと思うけど高知悟だけで調べてないよな?」
「え~、高知悟と片川美富だけど……」と、一助。
「おー、俺も……違うのか?」と、数馬が訊く。
「社長とか専務とか係長とか……誰が裏帳簿作ったのか分からないんだから関係者名では訊いた方が良いだろう。
……訪問先はメモしてるか?」
一心がきつい口調で言う。
「おー、一応名前と住所と電話とな」
数馬はちょっとムッとした顔で答える。
「まあまあ、よろしおす。その先に他の関係者名でも預かりがないか美紗と訊くさかい、二人は別のとこ探しよし。時間ないよってな!」
静が珍しく眉間に深い皺を作って言う。
十一時になった。
依然として帳簿は見つからない。
流石に焦ってくる。タイムリミットが午後四時だとしても浅草からは二時間はみてないとあの工場まで行けない。
つまり、残り三時間しかない。
「丘頭警部、そっちはどうだ?」一心が電話口で丘頭警部に叫ぶ。
「いやぁ、ダメよ、口座の取引からトランクルームの可能性が高くなったけど、それでもまだ絞り切れないから手広く捜査しているわ。そっちは?」
「同じだ。借主の名前はどう訊いてる? まさか高知だけじゃないよな?」
「勿論、社長、専務、係長や経理の六名の担当者名でも訊いてる。それと片川もいれてね」と、警部。
「流石だな、うちはちょっとその名義人の指定が少なくって、今電話で再確認してるとこだ」
「そう、仕方ないわね。午後二時までに発見しないとあそこまで二時間掛かるでしょう。犯人の所在もあの近辺で探してるんだけど……見つけられない。ちょっと焦ってる」
「おう、お互い頑張ろうぜ」
「えぇ、絶対あの親娘を救うわよ」
力強い丘頭警部の声を聞いて電話を切った。
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