第40話 呼び出し
謎の二人の素性が判明した日の夕方、一心に片川美富から手紙が来た。
封を開けると手紙が入っている。
手紙には
「娘を殺されたくなかったら、下の場所に来い。」と書かれていて、その場所は「八王子市本郷町の清家織物工場」とある。
日付を見ると今日の午後四時だ。時計を見ると午後二時になるところだ。
一心は慌てて丘頭警部に連絡をし、静を連れて首都高速で八王子市に向かった。
飛ばしても二時間近くかかる。
助手席の静が
「せやけど、なんで美富はんを呼び出したんでっしゃろ?」
「……ん~、本人に帳簿の在処聞き出そうとしたのかもな」
「いきなり殺さはるなんてせぇへんやろな?」
「それはないだろう」
「ならえぇんやけどなぁ」
静は心配で眉の端を下げている。
車は首都高から中央自動車道に入り八王子バイパスを通る。
八王子インターチェンジから下りて国道十六号線を南下し、大和田町四交差点を右折、三キロ程で現場付近に到着。
付近の食堂に入って「清家織物工場」の場所を訊く。
そこから五分とかからず言われたとおりに工場の門を見つけた。
車を降りて中の様子を窺う。車にGPS発信器を置いてきたので丘頭警部は迷わずここまで来れるはずだ。
人の気配はないが犯人が外を警戒しているだろうから迂闊には入れない。
周りを囲っている塀の右手に壊れている部分が見えた。
「静、横の隙間から入ろう」
そう言って横へ回る。
建物までは二十メートルくらいある。幅が五十メートル奥行三十メートル程もありそうな大きな工場だ。
塀の隙間を抜け腰を屈めて小走りに近づく。
――ここまで、見つかって無いようだ……
建物横の小さなドアを引いてみると開く。隙間から中を覗くが人影は見えない。
そーっと中へ。
中には背の高さほどもある埃にまみれの何かの機械が乱雑に何台も置かれている。
ゆっくり進んでいくと
「止まれ!」と、どこからか男の声。
十メートル程前の機械の陰から縛られた親娘が姿を現した。覆面男が二人銃を親娘に向けて構えている。
美富は殴られたのだろう顔に青たんをつくり唇に血が滲んでいる。服も埃まみれになっている。
「その親娘に手を出すな。俺が人質になる」
一心が叫ぶといきなり上から男が飛び降りてきて一心の頭を殴る。
「ゲッ」呻いて一心が頭を押さえる。
一心はとっさに静の手を握る。
「静! 手を出すな! 人質がいる」
静の目はボクサー色にぎらついているが、……少しして腕から力が抜ける。
「ふふふ、やっぱり来たな……待ってたぜ」と、誘拐犯が言う。
「何? 俺たちが来ることを期待して美富さんを呼び出したのか」
一心が叫ぶ。
「やっと分かったか。……いいか、お前ら探偵だろう? 写真は確かに受け取ったが帳簿がまだだ、二十四時間やる。ここへ持って来い。それまで親娘は預かる。来なければ殺して、俺らは逃げる。分かったな!」
男が言い一心の答えを待たずに走り去る足音が工場内に響く。
「待てっ!」一心は怒鳴ったが、もう反応は無い。
五分後、
「一心! どこだぁ!」丘頭警部が駆け付けてくれた。
「おーここだぁ」一心が叫ぶ。
丘頭警部の姿が見えてホッとする。
犯人とのやり取りを説明する。
「二十四時間って、これまで時間をかけても確定できなかったのに……無理だって言わなかったの?」
「奴は言うだけ言ったらさっさと逃げて行った」と言って頭を押さえる。
「どうした? やられた?」
「あ~、殴られたが大したことじゃない。それより帳簿だ!」
「犯人たちはここからどうやって逃げた?」と、丘頭警部。
「あ~見てない……静は何か気付かなかったか?」
「エンジン音聞いたような気がしますよって、車でっしゃろ」
「一心も静もその車は見てないな?」
丘頭警部に言われてその事に気付いた。
「あ~、何かぼ~っとしてたわ……すまん」
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