第35話 探偵の危機
尾行に気付いたのは對田建設を出てすぐだった。
黒っぽいスーツをきちっと着こなしているが黒マスクに黒の革手袋をはめて、何と言ってもサラリーマンとの違いはサングラスだ。
さらに遠目だが左胸が膨らんで見えたから拳銃でも隠し持っているのかもしれない。
一瞬殺し屋を連想させる。
一心は足を速めてみる。……やはり男もペースを合わせてくる。間違いなく尾行だ。しかも、気付かれないように尾ける気は無いようだ。
地下鉄のホームに立つと男は隣の車両の乗降口に立ってこっちを見ている。
電車がホームに滑り込んでくる。
ドアが開いて一心が乗ると男も乗った。
発車の合図でドアが閉まり掛けた時、一心は素早く降りて、再度乗る。
男は降りたままだ。乗れなかったようだ。
一心が男の前を通り過ぎるとき一心はにやりとして手を振ってやった。
――へへっ、発車間際に飛び降りるのは常套手段だが再度乗るとは思わなかったんだろう。ドジな奴……
帰りがけ歩き回って腹減ったし夕飯にはまだ早いなぁと思って、十和ちゃんとこでラーメンを食べて行こうと店に入り何ラーメンにしようか迷っていると、どうしてここが分かったのか? あの男が入ってきてラーメンを注文する。一心も慌てて注文する。
男は熱いラーメンに息を吹きかけることもなく、でかい口を目一杯開けて頬張っている。
そして先に食べ終わって、金を払ってから一心に近づいてきて耳元で「手を引け」とどすの利いた声で言ってジャケット内側の拳銃を見せる。
一心が睨みつけると不敵な笑みを浮かべて出ていった。
――こんな奴に脅されたくらいで引っ込んでられるか、ばかやろっ! ……
男が店を出たあと急いでラーメンを食べて一心はその後ろ姿を遠目にしながら続く。
しばらくの間男の後を尾行する。何処へ行くのか? 浅草の街を30分程歩き回って……見失った。
事務所に状況報告をして、辺りを探し回って路地に入ったところで後ろから肩を叩かれ振向くと強烈パンチが襲う。
間一髪かわしてパンチを繰り出すが空振り。
一心より若干背の高い肩幅の広い男だ。
少しの間睨みあいになる。男はサングラスにマスク、人相は分からない。
突然、懐から拳銃を出し銃口を一心に向ける。
「おいおい、こんなところで撃ったらすぐ警察来るぞ!」
一心が叫ぶと「撃たれたくなかったら後ろを向け」と言いながら撃鉄を起し近づいて来る。
やばいと思い「わかった」言って後ろを向いた瞬間脳天に強烈な衝撃を受ける。
――あ~目から星がぁ……
一心は警戒はしていたがやられた、呻いて頭を押さえふらつく。
「次は殺す」そう言う声が霞んでゆく意識の中で聞こえた。
――くっそー、静っ……
どのくらい時間が経ったのか「いっし~ん」と繰返す声が次第に近づいてくる。
「一心!」と身体を揺すられて気が付いた。
「静……数馬も……いやぁ、やられたぜ、いててて……」
頭に激痛が走った。かなり手酷く殴られたようだ。
「誰どす? あんたはんをこないな目に合わせよって……」
静は心配と怒りの混じった顔をして一心を見詰めている。
「殺し屋風の男だった。手を引け、と言って立ち去った」
頭を押さえていた手がぬるっとするので見ると血がべっとりとついていた。
「手を引けと言わはっても何から?」
「恐らく、對田建設の会社の中を調べられたくないんだろう」
――誘拐事件なら警察が捜査しているのは知ってるはずだ、やっぱり社内に何かあるんだろう……
「一心立てるか?」
そう言って数馬が手を引いて起してくれ、肩を貸してくれた。
――いててて……頭の痛みがまだ取れない
一心は頭を数馬がくれたタオルで押さえながら数馬の肩を借りて車までよたよたと歩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます