第34話 社内の聞き取り(2)
「専務についてはどうだ?」
一心が問いかけると、
「何かなぁ、専務はんも誰かに脅されてるらしいですわ」
「どんな内容だ?」
「おー、国交省の課長級以上の相手とかゼネコンの部長級以上の相手とかにはランク付けしていて、ランク毎に決まった金額の賄賂を渡してるって噂が社内を流れているらしいぞ」
美紗が腹立たし気に言う。
「それを専務が仕切ってるって話か?」
「そうよ、腹立つ」
「何も美紗が腹立てなくったって良いだろう?」
「だってよ、事業の発注を安くていい仕事をする業者じゃなくって、金で選ぶってことは税金の無駄遣いにもなんだろうしよ!」
喋りながら一層腹を立てる美紗。
「確かにそうだ。だからその不正を俺たちが暴いてやろうぜ」
一心がそう言うと大袈裟に頭を縦に振る美紗。
「お金だけじゃおまへんのや」
「何? 他にもあるのか?」
「へぇ、おなごどす。今言った相手になお金の前に接待するんやけどな、その時に一晩相手するおなごはんを用意してるらしいわ」
「おー、それでよ、人事課の女がよ専務の電話を盗み聞ぎしたところによればな……」
「盗み聞ぎって、良くやるなその女性も」一心はその大胆な行動に少し呆れると言うか驚いた。
「どうも中年男に脅されてるらしいって言うんだ。その電話が終わってからお茶を持って行ったら『どこの野郎だか知らんが、この俺を脅そうなんて十年早いんだ! なぁ、そう思うだろう?』って私に言うんで、訳わかんなくって一応頷いたんです、って言ってたぜ」
「しかし、社長も専務も脅されてたなんて、同一人物かなぁ? それに、何を要求されたか訊いてないか?」
一心が訊くと静と美紗が顔を見合わせて
「それは訊いてない。でも、脅すったら金目的じゃないの?」
「丘頭警部にそれ話して、会社の帳簿を借りてそう言う金の出金の有無調べて貰った方が良いな」
「そうどすな、噂で終わったら事件の調査進まれへんもんな」
「まいど~」
丁度一区切りが着いたところで十和ちゃんがラーメンを運んできた。
数馬と一助が素早く十和ちゃんが両手に重そうに持っている岡持を階段の途中まで受け取りに行ってラーメンをテーブルに並べる。
――十和ちゃんとは数年前十和ちゃんの彼氏が殺害されると言う悲しい事件の絡みで知り合い、十和ちゃん自身が大富豪の孫娘だと分かったのだが、色々あって遺産の受け取りを拒否して浅草の今のラーメン店で働いる。両親が亡くなっているので一心と静が親代わりだと言って十和ちゃんを応援している。――
「忙しいか?」
一心が訊く。
「え~、お陰様で今の時間は夕食時なんで繁盛してますよ」
にこにこと笑顔で答える十和ちゃんは可愛くて、すぐ男言葉の美紗と比べてしまう。
――あ~、十和ちゃんが俺の子供なら良かった……
「な~に俺を見てんのよぉ……一心! また、俺の代わりに十和ちゃんが娘なら良かったって思っただろう!」
美紗に読まれたと思ったが……
「まさか、そ、そんな、こと……」
一心が言いかけると「美紗も可愛いあての娘どすえ~」
静が救ってくれた。
「ふふふ、相変わらず面白いご家族ですね」
十和ちゃんが笑いながら言って場が和む。……美紗はちょっと拗ねた顔をしているが……
三十分後食後のコーヒーを啜りながら話を続ける。
「静、美紗 鳥池常務の話は何かでなかったのか?」
「せやなぁ、常務はんは温厚でおなごはんには優しい言うてました」
「それによ、いつも社長と専務の間で仲を取り持つ太鼓持ちのようだっていう奴もいたぜ」
「社長と専務の不正を知ってたんだろうか?」
「それは知ってるだろう。こないだ社長の娘と専務の息子来てそんなこと言ってたじゃん」
「そうだったか……美紗は記憶力良いな」
「あら、あても覚えとります。あんたはんが記憶力悪いだけじゃおまへんか? ふふふ」
――やばい、変に突っ込まれた……話を逸らそう……
「数馬と一助! 高知課長が書類を隠しておける場所見つかったか?」
「おー、何かこっちに風当り強くなってきたぞ~……だけど見つからん」と、数馬。一助も頷く。
「部屋借りてたとかないか?」
「それは無かった。他の方法考えてみるわ」
「おー数馬頼むぞ」
「俺は明日から管理職に話訊いて来るわ」
――大した話は聞けないだろうが、人を知るうえでひと回りした方がいいだろう……
「美紗は對田建設のネットワークに侵入して不正に関する文書とかメールとか探ってくれ」
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