第17話 帳簿の行方
一週間ほど入院して家に戻った一心は事務所の長椅子に足を伸ばして横たわり考えを巡らせていた。
誘拐事件の被害者の一族を調べさせたが、親族にも大金持ちや資産家はいない。
――そもそも金銭を要求されていないのだからそれを調査する必要は無かったのかもしれないが……
帳簿は会社の財務状況や経営状態を把握するために使うものだから、亡き主人の勤務先か自分の勤務先の洗濯屋のか? どちらかだろうが、
洗濯屋は無関係だろう。何故なら、それなら直接洗濯屋を脅迫するとか盗みに入るとかするだろうが一切そういう事実はない。
それに片川美鈴の旦那は三年前に病死してるから関係ないだろう。
……そうすっと……行き詰っちゃうなぁ……
一心はみんなを集め
「皆、美富に誰か簿記に関わるような恋人とかいないか探ってくれ」
と声を掛けた。
「おーわかった」と数馬。
「静は直接美富に聞いて見てくれ」
「へい、たまに美紗一緒に外へ出ぇへんか?」
「え~、俺もか? まあ良いけどよ……」相変わらずの男言葉の美紗だ。
――そういや静と美紗が一緒に出かけるなんてないもんなぁ……それで美紗がなんか嬉しそうなんだ。
「俺は浅草署の田川刑事と小学校と自宅の間の監視カメラに美紗の見たと言う黒いワンボックス写ってないか洗うな」
と、一助が言って「映像が見えずらかったら、美紗ちょっと加工頼むじゃ」と続けた。
「おーいいぞ」
珍しく美紗が笑顔で答えた。
夕方、美富に会いに行っていた静が帰ってきた。
「去年殺された對田建設の高知経理課長とお付き合いしてたと言ってはったけど、でもな、帳簿は見たことも聞いたこともないと言っとりましたわ」
「いつから付き合ってたんだ?」
「美富はんの旦那はんが三年前病気で亡くなりはって、その時同じ経理課の上司だった高知はんがなんやかんやとお世話してくれはって、それが切っ掛けやそうどすわ」
「だけど、高知課長には確か奥さんがいただろう。不倫してたって事か……静、高知課長の奥さんに話を訊いてきてくれ」
「へい、明日朝から行ってきますわ」
静はそう答えて夕ご飯の支度をしに奥の部屋へ引っ込んだ。
皆が夕食を食べ終えた後一助が肩を落して帰ってきた。
「一助、どうした?」
「あ~、監視カメラを田川刑事と何カ所か見て回ったんだけど、どこも霧、霧でナンバープレートは写って無かった。この線を洗うのは無理だわ」
「そっかぁ、残念だけどそう力落とすな。まだ、やり口は有るんだから、な」
一助は片手を上げてそのまま三階の自室へ戻って行った。
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