第11話 令嬢の調査
それから課長が亡くなって、更に一年が経過した昨日、弥生は社長に話をしようと正二郎と社長室の隣の会議室で待っていて、對田社長と村岩専務の激しい口論を確り聞いてしまったの。
ちょっと行きずらくなっちゃった。
「ねぇ、正二郎どうする?」
「そうだなぁ、二人ともえらい剣幕だったからまともに話を聞いてはくれないだろうな」
「ただ、村岩のおじさまの考えだと、法律に触れるんでしょ」
「まあね、だけど役所以外はセーフだよ」
「え~、正二郎は認めるわけ?」
ちょっとムッとした。
「い、いや、勿論認める訳ないじゃん……もう少し二人の実際にどうやってきたのか調査してみないか? 言ってる以外に何か陰でやってるかもしれないだろ?」
「え~そうねぇ、なんかスパイみたいだね。やろやろ」
――言動が一致してるとも言い切れないし、正二郎と一緒にやるなら楽しそう……。
「おいおい、遊びじゃないから慎重にやらないとやばいからね」
正二郎はどちらかというと度胸は無い方だから何事にも慎重なのよねぇ。
「わかってるって」弥生は軽く返した。
「じゃぁ、ちょっとお昼兼ねてファミレスでも行って何か食べながら相談しようか」
二人とも對田建設で働いてはいるがぺいぺいだから社内のどこでも自由に出入り出来ると言うわけではないし、ネットワークにも権限があるから参照できる範囲は決まっているし……。
昼の時間帯が過ぎているので客はまばらだった。
「私、ボンゴレ・ビアンコとコーヒーにする」
「俺は、ハンバーグランチにコーヒー」
弥生はホール係りに注文してからはたと気付く。
「あら、私は課長に遅くなるって断ってきたけど、正二郎は言ってないんじゃないの?」
――なんとものんびりしている正二郎、そんなんでいいのかしら?……
「えっ、あ~……」
正二郎は慌ててケータイを取り出す。
「あっ、係長、村岩です。すみません。ちょっと父に言われて調べ事してるんで……え~……終わり次第戻ります。……はい、すみません」
冷や汗を一杯掻いた正二郎が大きくため息をついた。
「ふふふ、ダメよ仕事忘れちゃ」
「でさ、思いついたんだけど、盗聴器を二人に仕掛けるってのはどう?」正二郎が汗を拭き拭き言う。
「いいけど……でも、本当にやばい話聞いちゃって、命狙われたらどうする?」
「ハハハ、バカな、映画の見過ぎだよ。親が自分の子供を殺すなんて考えられないよ。……でさ、友達の探偵の妹が色んな盗聴器を作って仕事で使ってるって聞いてるから、二つ売ってくれないか聞いてみるよ」
「へ~、そんなのあるんだ」
「うん、何か蠅型とか毛虫型とか……色々あるようなこと言ってた」
「何それ、面白いと言うか気持ち悪いというか……まぁ何でも良いわ、訊いてみてよ」
昼食を終えて正二郎は仕事へ戻り、弥生は同期で父の秘書でもある肥後茜(ひご・あかね)に仕事が終わってから話を訊きたいと電話したんです。
「……私は経理じゃないから良く分からないんだけどさぁ……」
茜は着替えもせず制服姿のままカフェにきてくれて、弥生の方に目線を走らせ少し迷いがあるみたいで重い口調で話始めたわ。
「噂では税金を誤魔化しているって……言いずらいけど、弥生のお父さんが……」と続ける。
「え~、まさか父が? そんな信じられない!」
――もしかして、ファミレスまで行って父と高知課長が内緒話してたのそれか? ……
弥生が興奮気味に言うと
「だから、噂だってば。ごめん変なうわさ話で……」
茜は慌てて済まなさそうに手を合わせるが……。
「でも、火のない所に煙は立たないって……」
――信じられない。茜は社長秘書なのにわざとそんなこと言うはずないだろうし……
「でもね、専務はもっと酷い事してるらしいわよ」
「え~村岩のおじさまがどんな?」
「接待の場に女性を同席させて、その夜に相手のお偉いさんにソープ嬢とかデリヘル嬢まがいのことさせて仕事取ってるって」
「え~女性ってうちの女子社員ってこと?」
――それなら、この会社なんの会社か分かんなくなる。
「まさかぁ、どこからかそう言う仕事でもやりたいっていう女の人を探してくるらしいの……噂よ」
「男って嫌ねぇ……失望しちゃう」
大好きな村岩のおじさまの話だけに弥生の受けたショックは大きい。
「あと、賄賂とかも使ってるらしいし……」
「仕事を取るためなら何でもやるって感じに聞こえるわねぇ」
――参ったなぁ、父親同士を仲良くさせるどころじゃなくって、不正行為を止めさせなきゃって感じじゃない。
「そうねぇ、会社が大きくなって私たちの給料も上がってくれるのは嬉しいけどさ、不正とかがばれて会社が潰れる、みたいなのは勘弁だわ」と、茜。
――確かに茜の心配ごとは理解できるなぁ……
「ごめんね、父達が迷惑かけて……」
弥生は涙が出そうなのを何とか堪えて茜に詫びたのよ。
「いやいや、弥生、全部噂よ、う・わ・さ……だから弥生が謝る話じゃないわよ。もう、ふふふ」
茜が笑い飛ばしてくれて少し気持が楽になった気がしたわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます