第7話 朔星の行進
イーリスはずっと
「あんた、あたしらの
「は?こんな何処の馬の骨ともわからないあたしをかい?」
「でも、熊に襲われてる赤の他人のあたしを救ってくれた恩人さ」
「……あたしを気味悪く思わないのかい?」
「そりゃあ、
イーリスは困惑した。イーリスを知った者はみな、
「それとも、あたしと暮らすのは厭かい?」
小首を傾いでイーリスを覗き込む女に、イーリスはどきりとした。すぐにイーリスは
「そんなこと、ない。嬉しいに決まっているだろう」
「なら決まりだ。あたしはグラフカ、よろしく。イーリスが厭なら、
白い歯を見せて笑う女に、イーリスは思わず貌を綻ばせた。初めて己を認めてくれた友。己には他者を
二度目の
目前では松明の列がしずしずと行進し、深淵へ吸い込まれていく
「くそ。俺たち、このまま全員殺されるのか?」
ぽつり、と暗闇の中に苦しげな聲が鳴る。薄ぼんやりと足許を照らす松明の光が揺らぐと、また別の聲が鳴る。
「嗚呼、きっとこのままお
「それならいっそ、愛する人と共に自ら昊に……」
「どうしてこんな目に……」
ぽつり、ぽつりと
(あたしに守れるものなんざ、限られてるものだな。まったく、自分で聞いて呆れる)
イーリスは小さく嘆息した。己を嘲るような嘲笑に近い溜息だ。頭布から波打って溢れる
「イーリス、無事だったんだね」
矢庭に、ペオニアの聲が横から鳴った。イーリスの姿を認めて駆け寄ったらしい。
「ペオニアも無事だったんだね」
「ええ。クスィフォスが助けてくれたんだよ」
「へ、へえ……クスィフォスが」
イーリスの表情が固まり、不自然なほどにぎこちなくなる。ペオニアは眉を顰めて小首を傾いだ。
「クスィフォスと何かあったのかい?」
「い、いや?何も」
上擦った聲で応えるイーリスにペオニアは尚も不審に思うが、当のクスィフォスの姿がないことに心付く。あの少年がイーリスの傍を彷徨いていないのは珍しい。不図ペオニアは目を泳がせるイーリスの様子にさらに訝った。
「……イーリス、
「ふえ!?」
初めて聞くイーリスの間抜けな聲に、ペオニアは
「クスィフォスとやっぱり何かあったんだろう?」
「だから!何もない!」
昨夜のクスィフォスとの出来事を想起して、イーリスの赤面は一層赤さを増した。イーリスにとってクスィフォスは何百年も年嵩の下の幼兒。まさか、あんな行動に出るとは思いもしなかったのだ。
(落ち着け。相手は
イーリスは強く左右に
「イーリス」
聞き慣れた少年の聲に、イーリスは飛び上がりそうになるのを堪えた。振り返ればいつの間にか濡烏に白銀の髪の少年。
「ク、クスィフォス……」
「何、びびってんだよ」
「びびってない。吃驚しただけだ」
イーリスが平静を取り繕うとするも、ペオニアが
「矢っ張り、何かあったんだろう?」
「だから、何も起きてないし、何もしていない」
「本当かい?」
とペオニアがクスィフォスへ視線を移すと、イーリスは慌ててクスィフォスの口を手で塞いだ。クスィフォスが余計なことを云うとは思えぬが、念のためである。然しその行動が寧ろ怪しさを増し、ペオニアに不審の眼差しを向けられる。
「何か隠しているだろう?」
「頼むからやめてくれ……」
イーリスが頭を抱えて項垂れると、その傍らでクスィフォスがにやりと嗤い、イーリスにだけ聞こえる聲で云った。
「何、意識してんの。誤魔化すの下手か」
すぐさまイーリスは面を上げ、クスィフォスへ睨め付けようとしたが、既に少年は先を進み、姿が視えなくなっていた。
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