第5話 夜凪
洞窟の
「取り敢えず、動ける者で夕餉の支度をしようか。クスィフォスがせっかく
「わあ!立派ね」
ペオニアもイーリスに合わせるようにして明るい聲を上げる。クスィフォスは黙して洞穴から
「……まったく、こんなときに喧嘩なんて」
イーリスは溜息を零した。ペオニアは苦笑いをして牝鹿を捌く支度を進める。クスィフォスに作られた瘤を擦りながら、
「なあ、イーリス。あんた、やろうと思えば
「はは、過大評価が過ぎるよ。あたしも
「でも俺たちを守ろうとしなきゃもっと動けるはずだろ」
まっすぐと向けられた
「あたしが
イーリスの言葉にぐうの音も出ないらしい。
「イーリス。あんたはクスィフォスの処に行っておいで」
「男たちの喧嘩だろう?あたしが行っても何も変わらんよ」
「そうかもしれないけれど。あの子にとって、イーリスがすべてだからね」
「……?」
ペオニアの言葉にイーリスは小首を傾いぐが、ペオニアは
不図、イーリスは樫の大樹の前で立ち止まった。見上げれば、樹上には濡烏の少年。
「クスィフォス、こんなところにいたのか」
「……なんだよ、イーリス」
イーリスを見下ろす
「ペオニアが夕餉の支度をしていていてね」
「で、邪魔だから追い出されたのか」
「……お前ねえ」
クスィフォスはついと貌を背け、昊へ視線を反らした。イーリスは苦々しく笑う。復讐に燃える者があるのも仕方もないことだ。彼らは友や愛する者を殺されたのだ。死してでも一矢報いたいと思うのであろう。イーリスは樹の幹に背を預けて洞窟へ視線を向けると、思い出したようにくつくつと嗤った。
「しかし、最年少のお前にこてんぱんにされて、カーシウスも哀れだな」
カーシウスとは
「あいつが弱いんだよ」
「お前はちっこいころからよく鍛えているからな。風邪もひきやすいくらいに虚弱だったのに、よく頑張ったよ、お前は」
「……」
クスィフォスは何も返さない。イーリスは肩を竦めて嘆息した。昊を見上げれば、矢張り満天の綺羅星。昨夜の騒動を知らぬかのように
「……他の
クスィフォスは呆れた様子で小さく言葉を吐き捨てる。
「寧ろ、俺たちだけが襲われるいわれがないだろう」
「確かに、ね」
イーリスは僅かににっと口端を持ち上げるも、すぐに
(なんでまた、急にこんなことをする気になったのやら)
(そういえば、ずっと
(巫子が欠けているから干ばつなのか。それとも他に何か要因があるのか。どちらにせよ、このままでは
刹那。
「
洞窟のある方角からつんざくような悲鳴が轟き、
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