第3話 黒曜石の少年
夜の
「まったく、なんて無茶をするんだ」
薄暗い、洞穴の中。イーリスのいた集落から北方に位置する洞窟だ。その一角で澄んだ少年の聲が澄み渡った。濡らされた手拭いで煤けた己の身體を拭いながら、イーリスは応える。
「いや、直ぐに合流するつもりだったんだよ」
「俺が行っていなかったら、今頃あんた灰になってなってたんだぞ」
イーリスの傍らで、ひとりの少年がふたたび聲を張る。聲のした
「クスィフォス……悪かったよ」
「そう思うなら、今度からせめて俺を呼べ」
「そうは云っても、
クスィフォスの指がイーリスの額を弾く。眉間に皺を寄せ、一層不機嫌な面構えをしてクスィフォスは聲を張る。
「いつまでも餓鬼扱いすんな!俺が
「二十年くらい前……」
「正確な数字は聞いてねえよ、くそ
今度は頭突きを喰らい、イーリスは頭を抱えた。その傍らでふたりの様子を見ていた
「相変わらず仲のいいねえ、あんたら」
「ペオニア見てたのかい」
イーリスは額を擦りながら応える。ペオニアは癖のない
この洞穴には、
「まったく、
「おい、過去を捏造するな」
低いクスィフォスの一喝。何気ない会話に励まされたのか、ペオニアを含めた周囲の
「そうは言っても、イーリスの背は抜けなかったんだな、坊主!」
見物人のひとりが囃し立てる。
「五月蝿え、あんたは大人しく寝てろ」
「ははは」
「水、汲んでくる。あと、喰い
「あたしも行くよ」
イーリスも立ち上がった。ふたりは比較的軽症なのだ。クスィフォスはイーリスを一瞥すると、黙してイーリスの提案を受け入れた。
「今日は冷えるね。
「……」
「水瓶、重いだろう。あたしが持つよ?」
「……」
返事をせずにずんずんと先を往くクスィフォスに、イーリスは頬を掻く。
「そう不貞腐れてくれるなよ、クスィフォス。昨日のことを未だ怒っているなら謝るよ。本当に悪かった」
「思ってもないことを云うな」
「……」
イーリスは眼を泳がせる。矢庭にクスィフォスは振り返ってイーリスを睨め付けると、低く聲を漏らした。
「あんたに気を遣われるほど、俺は
「いや、ね。二百も
イーリスは苦笑いを浮かべながら、クスィフォスの隣に駆け寄った。
「ほら、そう怖い貌をするな、クスィフォス。せっかくの美形が台無しだよ」
「何を台無しにするんだよ」
「若しかしたら将来、共に
昊へ共に還る。それは、
「そんな心配、あんたにされる必要ねえよ」
「そうはいかないよ。お前をずっと見守ってきたんだ」
イーリスの言葉にクスィフォスが眉根を寄せると、ずいとイーリスに詰め寄った。
「だから、あんたにそれを言われるんじゃあ、意味ねえんだよ」
真っ直ぐにすべての光を掴んで離さぬ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます