第2話 送者の侵攻
常闇の
(今日は風が酷いな)
イーリスは貌を顰めると頭布を被り直し、枝の上で立った。此処からは常闇の
(ん?)
遠方でちらりと何かが動いたのだ。いったい何なのかとイーリスは目を凝らした。こんな夜更けに
(あれは……)
その
(……
イーリスは瞠目し、急ぎ樹下へ飛び降りた。すると同時に、矢の放たれるような風を切る音がイーリスの耳に届いた。
「火事だ――……!」
集落の一角から、叫び聲が轟いた。驚いて面を上げると、聲のした方角から白煙が上がっているのが視界に映った。イーリスは己の大剣を握り、急ぎ集落へ
「イーリス、助けて!」
イーリスが火の手の上がったあたりに到着すると、集落の住人が聲をあげた。其処には先程見かけたのと同じ、
「……この、離れろ!」
イーリスの大剣が白装束の喉元を描き斬る。血汐が弾けて男が崩れ落ちると、すかさず腰を抜かしていた集落の女を引き寄せる。その者は恐怖で唇を震わせた。
「ありがとよ、イーリス。いったい何でこんなところに
「わからないが、南方からこちらに
女がこくこくと
風が強いのも相まり、火の粉はあっという間に広まった。イーリスの貌を覆う頭布越しに、視界は
炎で崩れ落ちる枝葉を躱してイーリスは突如立ち止まると、高く跳躍して振り返った。其処には袖のない
「貴様たちは、双つ星の命により、昊へ還されることが決まった。大人しく、縄に付きなさい」
「死ねと言われて死ぬやつがあるかい」
イーリスはきっぱりと言い切ると、
「くそ、
その瞬間。
「な……!而も、女……だと!」
男の驚愕した聲。それも無理のないことだ。イーリスは女にしては上背のあり、重量のある大剣を軽々と片手で操っている。イーリスはにやりと口端を持ち上げた。
「はん、女で悪かったね」
「なんで
「さあね。双つ星に聞いてみ……な!」
イーリスは勢いよく大剣を振るい、今度は的確に男の喉を裂く。続けざまに後方より忍び寄っていた男の肚を蹴り上げて樹木に叩き付けた。イーリスは大剣を握り直して未だ燃えていない茂みに向かって一喝する。
「今のうちだ!早く逃げな!」
茂みに身を隠していた数人の
「ありがとうよ、イーリス。あんたも早う逃げるんだよ」
「ああ。
イーリスは目元を僅かに和らげると、すぐさま踵を返して、炎の渦中へと身を投じた。
広場のあった場所では、既に息絶えて、星の廃となって火焰とともに昊へ運ばれていく
「誰かいるか!」
イーリスは聲を張って呼びかける。イーリスも長くはいられない。燃え盛る木々の熱に
(しま……!)
回避しようと身體を捻るも、間に合わない。イーリスは死を直感して目を瞑る。すると、瞬刻も待たずにイーリスの腕を何かが掴み、引き寄せられた。
「イーリス!」
イーリスは己を呼んだ聲主に瞠目した。
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