14:黒猫がカタる満月のお噺

 目眩はだいぶ収まった。気分は控えめに言って最悪なのだけれど。

「嘘はなし、誤魔化しもなし」

 黙ったままの黒猫に通告する。正直積極的に責めようなんて気は失せていた。大枠は把握できてしまっているし、そこからの予想もある程度ついてもいる。けれど、見えていない部分もあるし、何より張本人の口から直接事情を伺いたい。あんなわざわざこちらの神経を逆撫でするような真似をしたこと含めてだ。

「カボチャの役目は一体なんだと思いますか?」

 あいつと同じ声で答える。

「なあ、その声止めてくれないか。やりにくくて仕方がないんだけど」

「それは申し訳のない話ですね。ですが諦めてください。もうそう言うものとして強く認識されてしまいましたから、変更は不可能なんです。ですがまあそうですね。先程の女性で良ければなることは出来ますけど、どうしますか?」

しれっと言い切って下さった。本当にこんな所まで呆れる位にそっくりだ。

 で、俺の中で思案するまでもなく天秤が間髪いれず問答無用で傾いた。どちらが良いではなく、どちらの方がまだましかで、だけれども。

 なので、このまま話を進めよう。

 カボチャの役目とは一体なにか。

 ジャック・オ・ランタンの名の通り燈會ランタン

 天国にも地獄にも行けなくなった男にせめて道行きだけはと手渡された灯火だ。拡大解釈するならばそれは道標で、だけど何処にも行き着くことはない。改めて言葉にしてみれば、孤独な男の 物言わぬ同伴者。

「ええ、その通りです。辿り着けない道程を照らす慰めでしょう。それでも彼らはいつかは何処かへ帰ります。ですがその為には彼が邪魔をする」

 黒猫が器用にお座りをしたまま空に陣取る巨大カボチャを指し示す。視線でそれを追いかけると、構わず黒猫は続ける。

「彼は願ってしまった。終わらぬ旅が終わることを。終わらないのならば世界自体が壊れてしまえと」

 確かに世界が壊れてしまえばルールなんて意味を成さなくなるだろう。まあそれ以前の問題として、こんな夢が溢れだしたら壊れるじゃ済まなくて世界の枠が外れて何処かにいってしまいそうなのだけれども。

 こんな話を聞いたからだろうか。見上げたカボチャは相変わらず笑っているのだけれど同時に何故だか泣いているようにも見えた。

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