13:満月が振り撒く

 改めて黒猫と向き合う。

 視界がグルリグルリと回って歪む。同時に内蔵の方も掻き回されたような痛みのない気持ち悪さが込み上げている。

 全ての夢は繋がっているから全くの無関係ではないけれど、だからといって自在に出来る訳でもない。それは夢魔の血をひく俺にも当てはまる。寧ろ中途半端に手を出せる分いろんな意味で質が悪い。

 自分の夢ならば明晰夢と言う形で操作は容易い。これは夢だと自覚して、自在に出来ると信じるだけだ。多少はコツを掴む訓練を必要とするかもしれないけれど、自分の夢つまりは己の経験、人生の一部を扱うのだから寧ろ出来ない道理の方が少ないだろう。そして他人の夢であったとしても俺ならば多少影響を及ぼせる。ただ、それは他人の経験に直接触れる行為だ。擬似体験するといっても間違いじゃない。異質なものを取り込めば当然、それに塗り潰される。オレンジジュースにコーヒーを一滴垂らしたならば、それは果たしてオレンジジュースと言いきれるだろうか?

更には、どれ程コーヒーの割合が増えようとコーヒーに変わることはない。何処まで行ってもオレンジジュースとコーヒーの混合物。ハイブリットにもなり切れない歪んだ混ざり物だ。

 確かに昔に比べれば耐性が出来てしまってはいるけれど、好き好んで自分以外の何者でもないモノになりたいとは露ほども思っていない。

 なので黒猫と睨みあうその裏で、必死に要らないものを選り分けて廃棄を繰り返す。コーヒー牛乳をコーヒーと牛乳に分離させようとするような無駄な足掻きだと言われたこともあるけれど、やらないよりかはずっとマシだろう。

 そんな中分かったこともある。

 この夢はナニか1つが見ているモノではなく、誰かとダレかと何かとナニか、正気も狂気もひっくるめ煮詰まり出来た蓋が開いた地獄の釜の中身の如くごった煮の混ざりに混ざった複合物。その核となったのが空にまします巨大なジャック・オ・ランタン。

 受け止めきれず溢れだした諸々を光に変えて地上に振り撒いて、自分の夢もろともグチャグチャに。このまま放っておけばどうなるか?

 地獄の釜が開きっぱなしなのと等しいのだから、やがてそれらは溢れ出す。溢れたそれは世界を満たし、世界を壊す。

意図してか意図せずしてか、おかしな夢の元凶は空に浮かんだ月の成り代わりだった訳だ。

 では、それにそっくりな小さなカボチャと黒猫は何なのか?

 答えは至極簡単。

 黒幕ならぬそれどころか、正真正銘の紛がうことなき被害者だった。

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