12:ジャック・オ・ランタンの懇願
黒猫が短く頷いた。無論俺に対して、ではない。
カボチャが動いた。
笑みを張り付かせたカボチャが、転がり、飛びはね、飛び降り、俺へと殺到する。
それは、撲殺か、圧殺か、皪殺か。どれににしてもカボチャにまみれて死ぬのは心底御免被りたい。
なので。意識を切り替えよう。過去から今へ、今から
迫り来るカボチャが到達するその前に、踏み板に踵を思い切り叩き付ける。板1枚の軽い音が響き渡った。
以前世話になった退魔の一族の少年が木刀の切っ先でアスファルトを叩き生じた音で
柏手や祭り囃子を例にあげるまでもなく、音には不思議な力が宿る。心地好い響きは場の雰囲気を正し、騒がしい程の演奏は時に悪霊すらも追い払う。
いずれにしても水面に浮かぶ波紋のように音の広がる様は、俺にとって酷くイメージしやすいモノだった。
頭上の踏み板から落ちてきた、真っ直ぐに転がってくるカボチャ達を夢をねじ曲げ作り出した小さな夢のポケットへ踏み鳴らした音をスイッチにして同時に跳ばす。本のページの表にカッターで切れ込みを入れて裏側への通路を作ったようなイメージ。
1テンポ遅れたからこそ移送から逃れ、下から飛び上がってきたカボチャの群れは迎撃する。今度はさっきとは逆。裏側からこちらへ引っ張り出す。こっちの方がやや面倒臭い。目視せずに指先の感覚だけでポケットの中の小銭を選ぶのに似ている。夢を繋いでさっきの仕舞いこんだカボチャ達を飛び上がったカボチャの上に出してぶつける。割れて砕ける姿を想像するも、幸いなことに互いに弾きあいビリアードよろしく明後日の方向へ跳んで行った。
ただ、衝突の寸前カボチャが打ち合わせでもしたかのように口を揃えて『タスケテ』と声にして、こちらを見るのは止めて欲しい。
なんだか此方が悪い事をしているみたいじゃないか!
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