11:黒猫の朱い牙
「おやおや、随分と怖い顔になりましたね」
「そう思うならさ。その声を止めようか。あんたが何者なのかは知らないけどね。冗談にしても質が悪すぎるんじゃないかな?」
「冗談のつもりはないのですけれど?」
「なら、なおのこと質が悪いね」
黒猫の表情は変わらない。ただ、黒猫は唇をつり上げ牙を剥いた。
猫の表情の変化が人間に見分けがつくのかと言われれば、少なくとも俺には区別はつけられない。だから笑顔には見えなかった。寧ろ朱に染まって見える長い犬歯が、どうしても吸血鬼を連想させて、どうにも余計なことを考えてしまう。
『猫なのに犬歯っておかしい』とのたもうていたのはあいつだったか、それともあいつの義理の妹(予定)だったか。
その時は確か、犬歯ってのは肉食獣で特に発達していて、その意味じゃ犬でも猫でも似たようなものだけど犬の方が猟犬としての付き合いが長い分、人間には印象に残ったんじゃないかと答えたら、『剣歯なら良かったのに』とか微妙に外れた事をほざかれたから、義妹(予定)の方だったかもしれない。
そうだ。だったら糸切り歯にしとけって言ったら『糸なんか食べないわよ!』と手も飛んできたから妹の方確定だ。
大学進学でお互いに地元を離れたから高校卒業以降会っていないけれど、あっちは多分元気でやっているだろう。恋人もついていったしね。でも本当良く大学受かったよな、
さてはて自業自得な面が多いとは言えど、もはや色々曖昧で溢れ落ちてしまっている記憶も数多く。だけども、今さら掻き集めるなんて事も難しい。
だからこそ、後生大事に残ったモノを未だ握り締めているのだけれど……。
いつか、そういつかはその辺も何とかしないといけない……。
ああ本当に、目の前にどうにかしなければならないことが手薬煉を引いて待っていると言うのに、なにを呑気に思い出に浸っているんだろうね。
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