9:マントで正体は隠せない

「何をやってんだか」

 意識を取り戻した和戸素子はキョロキョロと周囲を見渡す。

「何をしているんだろうね?」

 曖昧な笑みを浮かべながら和戸素子がマントというよりは外套といった方がしっくり来る外衣の合わせを握り締めた。

「あーー、今回も自覚なしか。ほら、とっとと出ようか、こんな所からは」

 さっさと立てと手招きすると、和戸素子は何やらモジモジとして、一向に立ち上がろうとしない。珍しいこともあるものだ。何時もだったら此方が止めるのも聞かずに騒動の渦中へとほぼ無自覚に突撃をかけるだろうに。

「和戸素子ー」

「いやぁ、ちょっと怖くてなかなか立ち上がれないかなぁー。守屋くん、先に降りて待っていてくれないかい」

「悪いけど却下だよ、和戸素子。俺が追いかけてたのが黒幕だったら良かったんだけどね。あいにくそれがあんただったから、まだどっかに黒幕がいるってことなんでね。そいつがなに企んでいるか分かったもんじゃないからゆっくり休んでる暇なんてないんだけど? 引きずってでも移動するよ」

 手を曳いて強引に立ち上がらせるが、まだモゴモゴ言っているので手を繋いだまま階段を降りる。

 確かに足を下ろす度にたわむ踏み板はいくら片持ち階段だからといって、いやむしろ片持ち階段だからこそ恐怖を煽ってくるのだけれど。それより今は、気になる事がある訳だ。

「なあ、魔女はどうしてマントを身に付けているんだろうね」

割と不自然な質問だったなと思うけれど、和戸素子は恐怖を紛らわせる為なのか話に乗ってくる。

「それは魔女だからじゃないのかい。ほら、サバトの時なんかマントだけな訳だし」

 まあ確かに、現代の認識でならばそう的外れでもなく、むしろ正解なのかもしれない。

 しかし。

「魔女の起源から辿っていくならば、彼ら彼女らは常に大鍋で様々な薬草を煮込んでいた。だから、斑に染まった服を着ていたそうだ。それがやがてマントを身に付けるようになり、汚れが目立たないように黒く染められた、と言うのを俺は和戸素子から聞いたんだけどね? だとするとさ、今俺が話しているのは一体誰なんだろうね?」

 逃げようと方向を変え階段を登ろうとした和戸素子を演じていた誰かの腕を思いっきり引っ張った。

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