8:鍔広帽子と赤マント
のけ反った魔女の頭から三角帽子が舞う。悲鳴のようなものは聞こえなかったと思うが、所々毛先の跳ねたセミショートが見えた気はした。
さて、魔女の帽子は魔女が魔女たる為のシンボルだ。
魔女は悪魔と契約することで魔女となる。そして悪魔には角がある。故に魔女は角を連想させる三角帽子を被るのだと言う。同一であると唱う為か、それとも悪魔のモノであると示す為なのか。
あるいは、正直あまり気分の良い話ではないのだけれど、中世ヨーロッパにおいて犯罪者や異端者に悪魔のそして罪人の象徴たる円錐形の帽子を被せた上で、町中を引きずり回し罵声を浴びせる風習があったのだと言う。即ち異端者=害なすもの=魔女。これもまた同一性か。
だがこれでは異端者であるから帽子を被るのか、それとも帽子を被るから犯罪者なのか。因果が逆転したが如く入り乱れ当たり前の道理さえねじ曲がってしまっている。
まぁだからこそ、魔女を象徴するものが欠ければそれは魔女ではない何て屁理屈も成り立つと言う訳なのだけれど。
階段を駆け上がり、かつて魔女だった誰かに駆け寄った。それ程力を込めたつもりはないのだが目を回して倒れている。怪我もないしコブもない。倒れているのは、魔女でなくなった影響というのもひょっとしたらあるのかもしれないけれど。
それよりもその帽子の脱げた姿を見て、盛大な頭痛が襲ってくるのを自覚した。
いや待て、ちょっと待て、本気で止めろ。
今の状況だけでもお腹いっぱいの重荷が過ぎるって言うのに、その上更に厄介事を重ねてくるのか?
そこにいたのは大学入ってからの腐れ縁、探偵志望を自称する、実際の所トラブル誘因体質なんじゃないかと思いたくなるくらい面倒事の中心にいる、和戸素子その人だった。何かの間違い見間違いじゃないかと二度見ならぬ三度見をしてみても誠に本当に遺憾ながら何の変化も見られなかった訳なのだけれどね。
ああ、これは確かに魔女だ。魔女のシンボルなどなくとも、紛れもなくどうしようもなく。だから、サッサッと追い出そう。心の底からそう誓う。
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