6:魔女はお菓子を悪戯に変える

 片持ち階段何て言う不安定な場所で踊るなんて行為は、ある意味魔女に相応しいのかも知れなかった。元々魔女とは『垣根の上に居る人』という意味の言葉が変化したのだとも言う。もちろん『垣根』は言葉通りのものではなく、『生と死を分かつもの』を指す。

 境界線で踊るもの、其は魔女なり。

 実際は病気や怪我、出産というような生死に関わる事柄に、医者という職業が出来上がるずっと前に従事していた人々の事を指しているのだけれど。

 それはそれとして、あれは魔女だ、と何故だか確信を抱いた訳だ。

 だとすればあれはこの状況における貴重な手懸かりだ。地獄の釜の蓋が開くハロウィンの夜に起きた異常に魔女が関係無い筈がない。いや本来のハロウィンから考えると魔女はなんの関係無く現れるのはこの世ならざる場所より這い出て来た亡者や悪霊のだけれど、最早一般に流布したハロウィンのイメージに上書きされているので、ハロウィンと魔女は切っても切れない位に結び付いている。

 余計なことを考えはしたものの、とにかく階段を駆け上がる。一段昇る度に踏み板が僅かに撓み、背筋に冷たいものが流れた。いくら夢の中だからと言って不用意に落下などすれば何かの拍子にショック死なんてこともあり得なくはない。特に俺みたいな夢で自在に動ける存在は時々夢と現実をごちゃ混ぜにして錯覚する。更には、魔女がばら蒔くお菓子が降ってくる。紅く染まった光彩の入ったあめ玉が、細長いパッと見に指に見えるチョコレートが気まぐれのように落ちてくる。受け止めようと手を出しかけて、嫌な予感に引っ込めた。何故かそういう勘だけはよく当たる。いいのだか悪いのだかは時と場合と状況によるのだけれど。

 踏み板の端に落ちたあめ玉はその瞬間に真っ赤な染みになって踏板を溶かし、拳大の穴を作り出す。チョコレートが綿菓子にでも落としたみたいに板に抵抗なく突き刺さる。手を出していたらと思うとゾッとする。

 一寸冗談にしても笑えない。確かに今はハロウィン。お菓子か悪戯かの二者択一の強制選択の真っ只中。

 だからと言ってお菓子を受け取らないなら、悪戯に変わるってのは質が悪すぎやしないか? いやいやそもそも受け取ろうとそうでなかろうと、これではどちらにしても悪戯じゃないかと思う訳だ。

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