5:路地裏にて魔女がお菓子をばらまく

 取り残されたかのように放り出されたその場所は、正しく裏路地と呼ぶに相応しい場所だった。左右は裏口すらもついていない正真正銘コンクリートの壁の様なビルに囲まれ、行く先は灯り届かず闇が横たわり、振りかえれば来た道もまた闇に覆われ確認できない。ならば何故俺はこの景色を見ることが出来ているのか?

 答えは至極簡単だ。見上げた先、狭くなった空の中、にやけたカボチャがご丁寧にスポットライトよろしく灯りを降らせている。砂めいた妙にキラキラとした光だ。降り積もりもしないし、吸い込んだところで味もなければ吸い込んだという実感もない。思い浮かぶのは砂の妖精が振りまくという眠り砂。これっぽっちも眠くはならないので何となく似ているのだろうという勝手な感想。いやまあ、後から体が発光しだす的なサプライズはあるかもしれないけれども。とにかく今は、ありがたりこそすれ、困ることではない訳だ。

 灯りは俺自身について回っているようで、先を確認したいなら自分も動くしかない。カボチャのお陰で足元ははっきりとしている。あとはそう。問題があるとすれば、目的地と告げられたこの場所がどう目的地なのか全く見当がつかないことなのだけれど。

 てっきり追いかけていた人影がいるのかと思ったが見当たらないし、なにか手懸かりになりそうなものがある訳でもない。確かに高崎真実がそう言っただけなので、何の根拠もないと言えば確かにその通りだ。

 とは言え、全くのデタラメだったとも思えない。理不尽なのが夢なのだと言えば確かにその通りではあるのだけれど。

 高崎真実は何かを知っていたのではないか、或いは何かに誘導されていたのではないか。そんな予測にもならない勘のようなものがある。

 肯定するかのように、音がした。

 空のカボチャが零す密かな笑い声を除けば基本的に自分が発した音しかしていなかったというのに、なにか小さなものが落ちる音が連続する。そちらへ走る。スポットライトは寸分遅れることなく追随し、空と大地を繋ぐ光は間にあるものを全て照らし出す。

 片持ち階段が複数のビルの壁面に渡って突き刺さり、空へと到る道を作っていた。その不安定な段上をスキップするように跳ねる影がある。

 お菓子をばら蒔くその姿が踊っているようにも見える人影は鍔広の三角帽子エナンと靡くマントを身に付けていた。

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