4:お菓子一杯のポケット

 ほとんど引きずられるような形で道行きを同じとする事となった。案内をしてくれるというならば、それはそれで有難い事ではある。必死に追いかけようと言いながら、ものの見事に見失ってしまったのだから。

 とは言え、先導する高崎真実はと言えば。

「この世界は誰か或いは何かの微睡みのなかで見ている夢みたいなものなの。だから誰かが目覚めれば全てが泡と消えてしまう。そんな淡くて脆いまさしく泡の上の楼閣みたいなものなのよ」

 はてこの人はこんなに饒舌であったでしょうか? と頭の上にはてなマークが浮かぶ位に滑らかに、滔々と語っている。

 聞き流すには些か心当たりがありすぎる内容なのと、頻繁にこちらに振り向き後ろ歩きをしながら頷きと意見を求めて来るものだから、真面目に聞かざるを得ないというか何というか。此方を向く度に背中に垂らした三つ編みが何かの尻尾のように揺れるのを数えてすでに11回。

 いつの間にやらビルの谷間だか路地裏だかな、空が小さく切り取られたそんな場所へと来ていた。

「そう言った諸々の事情から、誰かが目覚めたくならないように世界はとてもスッゴく賑やかに成りましたとさ」

 高崎真実はそこで足を止め、そして此方をじっと見つめる。コメントを求められているのだろうな、とは思うがそんな胡蝶之夢より途方もない事にどう答えろと?

「どれだけ賑やかで起きたくないとしても、夢はいつか覚めるものですよ 」

 果たしてその答えはお気に召すものだったのかどうか。

「瞬き1つにも満たない一瞬の眠りだったとしても、見た夢までが一瞬の出来事とは限らないよ」

 ほら、夢で一生を体験するなんて事もあるでしょう、と続けられた。

 言葉に詰まる。何をどう言ったところで言いくるめられてしまいそうというか、この人先輩親父の知り合いとか言わないよな?

「そんなに難しく考えなくても大丈夫。今は何となく頭の片隅にでもおいといてくれたら十分かな。ということで、はい!」

 高崎真実がスーツのポケットからお菓子を取り出した。小袋の、あめ玉やチョコや、あられが手のひらの上で山になっている。そんな気配は微塵もなかったというのに一体何処に収まっていたんだろうという量だ。

 戸惑っていると、

「今日はハロウィンでしょ。持ってないと大変よ」

 有無を言わさず受け取らさせられた。

 そして。

「此方が貴方の目的地。お探しの相手はすぐそこにいるから、気を付けてね」

 言われて、気が付けば高崎真実の姿は消えていたディスポーン。現れた時とはまるで逆。声が途絶えてしまったから存在も消えた、と言うかのよう。

 幻や思い違いでないのは、目一杯に膨らんでしまった上着のポケットが何より雄弁に語っている。いや、本当にあの先輩高崎真実、何者だ?

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