3:黒服のレディ

「はぁい、そこのファニーボーイ。一寸遊んでいかない?」

 必死に影を追いかけていると、不意に声をかけられる。不意に現れたとも微妙に異なる、俺が声を認識したからそこにいると確定されたというなんとも曖昧極まる夢に相応しいポップアップ。

 声の主も夢に相応しく混沌としていた。思わず足を止めてしまう位には。

「なにやってんですか?」

 問いかけた相手は、大学のゼミで何度か顔を合わせた双子の姉弟先輩高崎真実姉の方。格別親しいと言う訳ではない筈なのだけれどなにかと気にかけてもらっていたようにも思う。とは言え、俺の方が然程意識をしていないのだから、ここでの登場は色々謎だ。親戚の集まりに、旅先で相席になっただけのお爺さんが顔を出しているような場違いな感じ。

「はぁーい」

 なんてにっこり笑顔で手を振っているが、格好はこの夢に相応しく黒無地のスーツ。黒服のコスプレといったところなのだろう。シワ1つないスーツ姿は凛としているが、女性らしい柔らかさも感じさせる為、凛々しさよりは愛らしさの方が強いだろう。弟さん高崎映はパッと見人当たりは良いのだけれど、ふっとした瞬間に物凄く鋭く研ぎ澄まされた抜き身の刀みたいな空気を纏う時があって酷く雰囲気の異なる姉弟双子とは思ったのけれど。その当たりは、実際に目にした時に抱いた感想と変わりない。

 だったら、やっぱり俺の記憶で作られた高崎真実じゃないのか、ここは夢の中なのだし。と言いたい所なのだけれど、先の理由も込みでどうにもご本人ぽい。迷い込んだのだとすれば、このまま放置は些か不味い。普通人は自分の夢の外に出ることはない。つまり勝手に夢に戻ることもまずない。

 たまーに傍迷惑な例外がいるにはいるが、それは滅多に起こらないからこそ例外と言う。

 一番の心配事としての身バレは、忘れてもらう事で対処としよう。

「帰り道は分かりますか?」

 ところがね。

 問うて答えが返ってくれば話が一番早かったのだけれど、果たして返答はなんとも判断に困るものだった。

「ほらほら行くわよ。道案内が必要でしょう?」

 一体何処へ連れて行こうというのか。有無を言わさず問答無用に腕を掴まれ引っ張られた。訳が分からず足を踏ん張って抵抗すると、その姿勢のままズルズル引き摺られる。え? いやちょっと待って! なにこの先輩怪力

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