1:嗤う月光

 ああ、本当にどこから突っ込んだものなのか。気が付けばこんな世界が出来上がっていた。

 白黒モノクロ、影絵な世界。その中で今の所、月らしきカボチャと俺だけが色彩を持っている。

 夢の中であるのは分かっている。というか、半夢魔である俺がそうだと認識出来ているのだからまず間違いなくこれは夢だ。そうでなければそれこそ何の悪夢だという話だし、遂に世界はとち狂ったかと嘆きの声を上げなくてはならなくなる。夢と現の境界が曖昧になるなんて考えたくもない文字通りの大崩壊だ。

 ただでさえここの所、底なしの迷宮監獄になった集合無意識領域だの、そこの底から湧き上がってきたなどという怪物だの厄介ごとばかりなのだから、少しは落ち着いて欲しいというのは本音の所なのだけれど。

 さて、これが夢なのは確かだ。けれど、一体誰の、あるいは何の夢であるのかは分からない。よく言われるように個々人の認識している現実が果たして本当に同一のものであるのかどうかという問題は夢にも当てはまる。むしろ夢は認識によって容易く形を変える。夢魔である親父にとって夢が星の大海であり、半夢魔の俺にとっては地下迷宮であったように大きく形を変える。最初の観測者の認識によって強く固定される、とは言えどもだ。

 この現状が俺の認識に影響されたもの、とは思いたくない。

 いやけれど。

 後の事を考えるなら、寧ろ俺の夢であってくれた方が幾分かマシなのかもしれない。そうであるならば、責任の大半が俺に掛かってくるとはいえ、俺が何とかすればまあそれなりに丸く収まる案件と言う事になる訳だし。

 月に成りすましているつもりのカボチャが月光と一緒にまき散らすささやきの様な遠い笑い声を聞きながらどーしたもんだとため息を飲み込む。

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