万聖節前夜、或いは丸いカボチャの見る夢は。

しょう

序:月は橙に

 世界は何処か朧気だった。

 月は煌々と丸い円を描き色々なものがシルエットに滲んでいる。

 明かりは絶え、ビルはくり抜かれ、喩えるならば切り絵で作った白黒の平面めいたカリカチュア。

 そんな歪んだ街角から影が一つ歩き出る。

 その影は一度顔を上げ、月を見上げた。

 見上げた月は橙を帯び、こころもち横に潰れているように見えた。果たして弧を描く目と吊り上がった口が付いたそれは 月と言っていいのだろうか。

 がっくりと肩を落とすその影はひどく疲れた顔をしている。

「ああ、本当にどうしたもんだろうね」

 溜息の代わりに無理やり言葉を押し出して前を見た影は年若く見える男だった。よく言えば優男、有態に表現すれば女顔。薄くでも化粧をすればよくモテるんじゃないかい、と大学に入ってから出来た悪縁奇縁の知り合いに言われたのは軽いトラウマだ。

 そんな顔を軽く歪めて青年は改めて月を見上げた。

 煌々と明るい月だ。多分恐らく、きっと。そうであって欲しいという願いも込めて青年は呟いた。

「幾らハロウィンだからって、これはやり過ぎなんじゃないかと思うんだけどね」

 言葉通り、地獄の窯の蓋が開くその時の、象徴とも言えるニヤケ笑いを浮かべた巨大カボチャが空の上から街を照らしている。

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