両性のヒューマノイド――三宅 勝己
まさか、今になってGeM-Huの話を聞くとは。
しかも、アオちゃんはこの技術の研究開発がかなり進んでいることを示す。
さすがに生殖器を二つ持って誕生させることはできなかったようだが、遺伝子解析の途中経過報告からして、ΑΩ-9とΑΩ-10は、クローンだ。
移植された男性器も性染色体が
なぜ男性となったのかと言えば、おそらく
それにしても、これは生命が軽く扱われているな。
ΑΩ-9は男性器のためにだけ最近まで育て上げられていた。移植後は用無しか。業が深い。
深夜、診療が終わった外来病棟の診察室にお邪魔する。
「邪魔するよ」
「
小児科、整形外科、泌尿器科などから大勢ドクターが集まり、一人の子どもの周りに集まっている。
当の本人は、見知らぬ顔に緊張しているようだが、小児科の子どもたちが見せるような、抵抗する態度は見せない。
「GeM-Huについては詳しいとか」
「レオが死んでから関わってないさ。
それよりも、アオちゃんは見世物じゃないんだ、関係ないドクターは帰りなさい」
「三宅先生だって産科じゃ――」
「俺のことはいいから、さあ」
若いドクターたちは、おもちゃを取り上げられた子どものように不機嫌そうに出ていく。
確かにアオちゃんは医師にとって興味深い特性を持っているが、寄ってたかって観られていたら気分が悪いだろう。
「三宅先生、各種検査の結果です。基本的には正常なのですが……」
「ホルモン量が異常だな」
性ホルモンが多いのだろうとは思っていた。もう第二次性徴が表れつつある。つい最近精巣が移植されたのだから、これからどのような影響が出るかは分からないが、強烈なホルモン量に晒されることになる。思春期早発症なども懸念される。
そして、一番懸念しているのは……。
「何度も聞かれているからうんざりするかもしれないけど、もう一度聞かせてくれないか? 君は、何歳だ?」
「3歳。2018年3月1日産まれだよ」
成長を無理やり早めていること。成長ホルモンの量が飛び抜けて高い。
だがこうして成長を早めると、早期に骨格の成長が止まるはず。おそらく体格ももともと大きいのだ。だから身長が今から130センチもある。
見たところ、精神年齢は高そうだが、感情の発達段階が遅いのではないだろうか。
表情がとても硬い。世界を警戒しているような緊張感が伝わる。でもその目はとても寂しそうに見える。
誰がこんな非道徳的な実験をしたのか、さつき君が教えてくれた。青薔薇会か。
青いバラといえば、遺伝子組み換え技術で不可能を可能にした象徴。自然界に青いバラは存在しないが、ほかの花からの遺伝子導入で人工的に作り上げたバラだ。
そしてΑΩという名前。黙示録の文言に「わたしはアルファであり、オメガである」とある。つまりは、最初にして最後、絶対であると。
最初と最後という双極の概念を越える存在。二元論的思想の中でも、
八百万教を含め多くの神話に両性の神がいる。青薔薇会は、偶像として存在させたかったのか。もしくは神を売るつもりなのか。神を創ることで神になろうとしたのだろうか。
こんな邪神、わたしは認めないが。
「失礼します」
懐かしい声で我に返ると、俺がとても険しい顔をしていたことに気づいた。眉間を指で押さえて
入ってきたのは、以前ナースとして働いていた未来さんだった。
「久しぶり。もう今日診られるところは全部診たよ。遅くまで待たせてすまないね」
「いえいえ、わたしたちが無理なお願いをしているほうです! 急に押しかけて申し訳ありません!
……その子がアオちゃんですか?」
「そうだよ、マゾさん」
俺に投げかけられたであろう質問に、後ろから部屋に入ってきたルナちゃんが答えた。
未来さんは顔をしかめて反論する。
「佐渡です。小さな子どもの前でやめてくださいよ。それに中学校の時から使い古されたネタなので」
「やっぱみんな同じこと考えるんだ。どう見ても
「アオちゃん、帰るよ」
ルナちゃんの軽口を受け流し、未来さんはアオちゃんの手を引いて診察室を出ていく。
アオちゃんが最後に会釈をしてくれた。
そしてルナちゃんは俺を見ると、少し気まずそうに挨拶をして出ていった。
レオと仲の良かった俺に、複雑な感情があるのだろう。
君も、大きくなったな。
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