金髪の追跡者――パール

 強引に駐車場から出はしたけど、あとは制限速度を少しオーバーするくらいの速度で積荷を輸送する。

 高速道路は逃げ道がないから、こういう時は下道で移動することにしている。

 佐世保はほどよく都会だから、脇道もあり追っ手も撒きやすい。国道に沿って、依頼主のもとに「お子様」を届ける。


 トレーラーに積まれている積荷というのは基本的には家財道具だけど、そこに子どもを紛れさせている。

 だけど青薔薇会のお達しで、トレーラーの中身はあたしたちには見せてもらえなかった。「お前たちはただ運んでいればいい」、と連中からの不親切な指示があった。

 割れ物注意かどうかぐらい確認させろ。


 それにしても、子どもか。ついに伯父様も人身売買に手を出したか。それとも冬月かな。

 ただでさえ武器密輸という真っ黒な道を突き進んでいるあたしたちが、更に闇に呑まれるようで、気味が悪い。



 あーあ。仕事が無事に終わったら、どこか外国に――。

 サイドミラーを見ると、遠くからかなりのスピードで追いかけてくる単車がいた。あたしたちとの間にも車がいるが、それも無理に追い越すような単車乗りだ。


「オストロ、あいつ邪魔か?」

「あまり目立つとサツが寄ってくる。どうするかはあんたに任せるが」

「了解。消す」


 小銃を背負い、助手席の窓を開け身を乗り出す。この先は街灯や看板などもなく、トレーラーの上にいても何かにぶつかるとは思わない。


 トレーラーヘッドからトレーラーに飛び移り、最後部まで来てから寝そべる。

 伏射の姿勢で、小銃を構えながら単車の乗り手を探す。


 いた。


 金髪をはためかせる黒人の女。純粋な瑞穂人ではなさそうだ。時折オフロードバイクの前輪を浮かせながら追ってくる。

 ショルダーストラップで何かを背負っているようだ。まさか銃だとは思わないが。

 早めに片付けるか。


 照準を定めようと銃口を向けると、近くを走っていたSUVエスユーヴイの後ろに隠れた。

 野郎。あたしに気づいた上で追い続ける気か。

 まあ、ガラス越しにでも当てられればいい。


 単車乗りの様子を凝視していると、彼女は突然立ち乗りになり、姿を現したかと思えば背負っていた物を構えた。やっぱりあれは銃だったか。


 本能的に伏せると、銃声と共に頭上を何かが通っていった。


 何だあれ。

 姿勢を変えてから銃を構えるまでの早さが尋常ではなかった。

 立ち乗りはできるだろう。ハンドルに脚を押し付けながら立てばある程度は姿勢を保てる。だがアクセルもクラッチも放した状態で車は速度を保っている。改造車ということか。

 発砲の反動もあるだろうに、そこはどうしている?


 あいつは戦い慣れている。かなりの手練だ。

 早く仕留めないと、こっちが殺られる!


 とにかく、雑にでも狙いを定め、牽制に弾を連射する。

 少しは怯むだろう。


 そう思っていたが、何を思ったのか彼女は前輪を浮かせるほどの加速で突進してきた。

 ショルダーストラップで散弾銃を吊り下げ、トレーラーを追い越す勢いで迫る。


 上で寝そべっていたあたしからすれば死角になるトレーラーの真横に来た。間合いを詰めて銃撃を躱すなんて相手は初めてだ。


 あたしは立ち上がり、トレーラーの陰に隠れた金髪を探す。走行中の車上は、冷たい風が打ち付け、はためく服が痛いほどだ。

 小銃を至近距離で外すことはない。次こそ当てる。


 トレーラーの右端まで移動した時、突然トラックが揺れた。

 バランスを崩してしまい、トレーラーの屋根に強く頭を打ち付けた。あたしが転げ落ちることはなかったが、小銃は道路に落ちてしまったようだ。

 ツーンと来る頭痛に悶える。


「オストロの野郎、まともに走れ――!」


 前方を見ると、トレーラーヘッドとの結合部がのが見えた。トレーラーのへりと導風板が平行じゃない。どれかタイヤがやられたようだ。


 オストロが無理な運転をしたというよりも、制御してくれているようだ。

 だがもう一発の銃声がすると、トレーラーヘッドは更に傾き、ついに制御できなくなった。


 反対車線にはみ出し、街灯に突っ込んだ。反動でまたトレーラーから放り出されそうになる。ぎりぎりトレーラーの上に留まれたが、あの金髪が目に入った途端に血の気が引いた。


 彼女は、あたしに散弾銃を向けている。




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小銃――基本的にライフル銃。大砲と区別する時の言い方。拳銃とはまた違う。

伏射――スナイパーと言って多くの方が想像するであろう、寝そべりつつ射撃する姿勢。

導風板――トレーラーヘッドやトラックの運転席の上に付く、空気抵抗を減らすための装置。

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