かつての兄弟――ダルド
入管を動かすとは思わなかった。
どこか地方警察を動かして実力行使されるのが一番の懸念だったが、まさか外務省が絡んでくるとは。
そもそも、ネヴィシオンはなぜ気づいた。
ネヴィシオン軍の偵察ヘリが島の辺りをウロウロし始めたとは思っていたが、瑞穂の外務省が動いたということは、ネヴィシオンと瑞穂の両国で俺たちを妨害するつもりらしい。
奴らがこちらに目を向ける前に、早めに動かそう。
入管が来る前にΑΩをトレーラーに載せられたのはよかったが、いつ捜索範囲が広がるか分からない。
「
あいつらはただの捜査員だが、機動隊を連れてきたらヤバいぞ」
「そうかもしれないけど、オペ室の片付けはどうすんの?」
トレーラートラックの助手席の女に声をかける。
真っ白なベリーショートで、若草色の瞳は気が強そうだ。
運転席の
彼女の気にしているオペ室についてだが――。
「あいつらがオペ室まで調べるようなら、吹っ飛ばす。だがそれまで放っといてもよさそうだ」
「――あいつなんか、気づいていそうだけど?」
パールが誰のことを言っているのか困惑したが、振り返ると、入管の捜査員の一人と思われる男が第三病棟の方向に歩いていた。
すぐに建物の陰に入り見えなくなったが、見覚えがある。
「あれって
「ああ、兄弟さ。今までの話だがな」
骨格が大きく、今も鍛え続けているのだろうあの体格。
仕事をする時の、誰をも寄せつけない威圧感。
それは、俺のよく知っている兄弟にしか出せないオーラだ。白く染めていた襟足は青くしていたようだった。
2年前に若葉霞を殺そうと椿会で奴を待ち伏せていた時、その現場で十月革命の邪魔が入った。目的が互いにすれ違っていたし、その場で衝突する羽目になった。
アルゴがその十月革命の一人を排除することになったが、残念ながら相打ちになった。二人共重傷だった。
事態を聞きつけた救急隊に二人がしょっぴかれてからどうなったかは、椿会として追えていなかった。親父が深く追求しなかったし、兄弟とはもう会えないと思っていたが――。
「会えて嬉しいぜ。兄弟!」
俺は腰に下げていた
何があったかは知らないが、今のアルゴの行動を見る限り、俺たちを調べ、妨害する動きを見せている。
外務省の手下に成り下がった兄貴には、俺から引導を渡してやる。
「オストロ! エンジンをかけろ!」
兄弟のことだ、もうオペ室は探り当てているだろう。
ならば外に気を引き、顔を出したところで吹き飛ばしてやる。
狙い通りに顔を出したアルゴ目掛けて、ピンを抜いたグレネードを思いっきり投げつけた。
「もう行け! ほかの奴が集まってくる!」
オストロたちのトラックを発進させ、俺は今爆発を起こしたオペ室に向かう。
病棟の一階まで漂う硝煙の臭い。金属片が細かく散らばる階段を上り詰める。
この曲がり角の先に、アルゴがいる。グレネードの爆発に巻き込まれて死んでいるか上手く逃げたか知らないが、ほかに道はないはずだ。
大きく外側から、少しずつ角の向こうを覗く。できる限り、無音で、ピストルを向けながら。
「
どうして気づいたのか、壁の向こうからアルゴが声をかけてきた。
「なぜそう思った?」
「やっぱりな。手榴弾で証拠も何も吹き飛ばしちまうような荒業は、ダルドだろうなと思った。
費用対効果が悪いぞ?」
何を思ったのか、アルゴが姿を見せた。
俺の真正面に立ち、銃口を向けている先で佇んでいた。
「どうした? 降参か?」
「ああ、
アルゴが手を挙げて降参の意思を見せるが、勘違いしているようだ。
「悪いが、今回の件は、目撃者全員を殺すことになっている。無抵抗だからって殺さない訳にはいかないんだよ」
「それは困ったな……」
打つ手なしといった風だが、アルゴの顔は大して変わっていない。この余裕綽々といった態度は、今も健在か。
横に構えたピストルの照準を、アルゴの眉間に合わせる。
“Addio, fratello”
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