抜け殻の病棟――橘 武蔵
バンの中で、鹿島さんの流してくれている無線に聞き耳を立てていた。
「明石将補の言い方からして、第三病棟ですか」
「いや、あっさりと明け渡しているように聞こえる。本気で
俺としては、明石将補が第三病棟のことを口走ったことが気になったが、大和は逆に、ミスリードを誘っているように感じたようだ。
さつきさんは、考え込むように顎に手を当て、無線機から流れるノイズに耳を傾けていた。
「ほかに、情報になりそうなことは仰らなかった。だとすれば、一度愚直に考えてみるのも手かもしれません。
では、こうしましょう。武蔵さんが第三病棟を調べてください。あとの二人、大和さんとルナさんは、わたしと一緒にここで待機するようお願いいたします」
それぞれ返事をし、俺は指示通り車を降りる。
第三病棟の裏手に回り、非常口を探す。
非常口のセキュリティーは切ったと連帝軍は言っていたが――。
ドアの周りに不自然な仕掛けがないことを確認し、ゆっくり開ける。
この場合、民間警備会社のシステムで施錠管理していたことが警察病院に災いしたようだ。ネットワークで管理されているからこそ、連帝軍に侵入され、解錠された訳だから。
俺には幸いだったが。
中に入れば、最低限電源は通っているようだが、実際改修中らしく工具類で散らかっている。資材を切ったり削ったりした時に出た屑もそのまま。
こんな病棟の中を部外者がうろついていれば、まさに不審者そのものだ。
さて、ΑΩたちは、「外科的な処置」をされていると言っていたか。ならば、どこか手術室に痕跡があるかもしれない。
一階の救急外来と思われるところを探してみる。救急車が乗りつけられるのを外から確認していたから、場所はすぐに分かる。そして、そのそう遠くないところに手術室はあるだろう。
予想通りに、手術室の方向が書いてある看板を見つけたが、エレベーターに続いている。エレベーターの電源は落とされているようだ。
階段を登り、二階はさらに埃臭いと思い知る。
施工業者は何ヶ月かけて工事をするつもりなのか。人がいた気配がまるで――。
いや、埃が綺麗に拭かれている箇所がある。
安全靴でついたであろう足跡が、途中で途切れている。
俺の立つ階段の正面から左手方向は床のツヤが分かるのだが、右手方向は埃で床が反射しない。
証拠隠滅か何かの目的で床も手すりも拭ったのだろう。
そして、磨かれた廊下の先に手術室があった。
電源が入っていないとただ重い扉をこじ開け、中に入ってみる。
照明がすべて外された室内は、さながら廃病院。
さすがに暗いし不気味なので、手術台の照明の電源を入れて部屋を照らす。
医療器具には詳しくはないが、見た感じでは外科手術ができそうだ。
手術台などは2人分。
心電図を映す機械や、何かの台(おそらくメスやハサミを置く台だろう)など、素人目には一式揃っているように見える。しかも整頓されて。
一階で見た乱雑に置かれた工具類と対照的だ。
そして、謎の袋が部屋の隅に放置されている。
赤と黄色の不透明な袋。確かこのマークはバイオハザードを意味する。医療廃棄物か?
さすがに袋を開けるのは……、気が引けるな。グロそう。
状況証拠としては、クロだな。
ここでΑΩ-9とΑΩ-10に「何か」をした。まだ何かは分からないが。
廃病院で何か手術をした痕跡がある。
だが、そのΑΩたちはどこにいる?
こんな
一応、さつきさんたちに連絡しよう。
無線機を使ってもいいが、周りに丸聞こえになる可能性もある。スマートフォンを取り出し、大和に
まだ入力が終わっていないうちに、外から大型トラックの動き出す音がした。裏手に資材置き場があったから、そこか?
廊下の窓から外を覗こうとした時、突然ガラスが割れた。
何かと思ったが、見覚えのある塊が落ちているのを見て、慌てて手術室に戻る。
壁を盾にしたところで、手榴弾が爆発した。
━━━━━━━━━━━━━━━
バイオハザード――生物学的災害を意味する。感染症などの原因になりうる物には、注意喚起のマークが表示される。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます