想定外の来客――明石 龍

 警備からセキュリティーシステムに異常があると電話を受けていた時、看護官が急いだ様子で扉を開けた。


「急ぎか? 悪いが今取り込んでいてな」

「入管庁の警備官たちが来られています。院内を調査すると言っています」


 忙しいのに。思わず溜め息をついた。


 警備には簡単に指示をしておき、自分は正面玄関へ。

 すると、場にそぐわない黒い人混みがあった。


 出入国在留管理庁の制服を来た職員たちが、部隊編制されているらしくそれぞれの隊で打ち合わせをしていた。

 その中の一人がわたしに気づくと、書類を携えながら話しかけてきた。


明石あかし将補ですか?」

「そうだ。ここで院長を務めている」

「よろしくお願いいたします。私はこの度捜査本部を指揮する鹿島かしまと申しまして、上席入国警備専門官です。今回伺いましたのは――」

「ちょっと待ってくれ、入管庁が何故?」


 一方的に乗り込んできたかと思えば、有無を言わさないかのように立て続けに話を進める鹿島に、さすがに違和感を感じた。


「外国籍の人物が院内で不法滞在していると通報を受けました。間違いならばそれはそれで問題ないのですが、調べない訳にはいきませんので」

「なんでこの人数なんだ?」


 60人くらいいる捜査官たちを見渡す。皆スーツを着こみ、インカムをつけている彼らを見ていると、ネヴィシオンのインペリアルガードを思わせる。

 ふざけた通報があるものだ。何人潜伏していると報告されているのか……。


「カルテでもなんでも調べてもらっても構わないが、うちでは外国人は診察しておらん。

 連帝軍の関係者を診ることはあったかもしれんが、一般外来も最近は受け付けてないし、基本的には警察官しか来ない」

「よく存じております。ただ、民間軍事会社の社員らしいので、潜伏できないとは言えません。調べるだけ調べて帰る算段です」


 どう考えてもイタズラじゃないか、そんな通報。


 だが、この鹿島とか言う男、追い返したところで帰りそうにないな。


「分かった。

 だが第三病棟は改装中だ。今日は業者もいないから施錠している。

 調べても大した物がないとも言える。資材が中で散らかっているし、人の気配もないだろう。立ち入るな」


 あの子どもは今移送のため、病棟からトレーラーに積み替えている。資材用トラックに便乗させると聞いているが、そこまで捜査の目が入るとは思わない。

 人探しなんだから、大人を想定していると思う。

 万が一立ち入られても大丈夫かとは思うが、青薔薇会が残した何かを警察に報告されたら困るしな。


「かしこまりました。その点は皆に伝えます。では、私共はただ今より家宅捜索いたしますが、診療に差し支えることがあればおっしゃってください。できるだけ迷惑をかけないよう努力いたします」


 あんたらが1個小隊規模で来ることが迷惑だ。

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