トラブルメーカーのパーティー――マリウス・ハリガン
船橋に入ってすぐに気づいたのは、船員の落ち着きのなさだ。おそらくクロだろう。
“貨物のリストは?”
“ここさ”
目つきの悪い痩せた男が、それらしい書類をアルバーンに渡した。
おそらく俺が上官だと判断し、分かりにくい資料を部下に調べさせようと時間を稼いでいるのだろう。
ちらりと見ると、資料には漢字や仮名が並んでいる。
“これは次の予約分。今積んでいるコンテナの中身が知りたい訳だから、今回の貨物リストをもらえる?”
だが、アルバーンは瑞穂語が堪能で、読み書きが難しいこの言語でもネイティブ並に理解している。
この男はアルバーンが瑞穂語に疎いと見て時間稼ぎを図ったようだが、相手が悪かったようだ。
渋々、男は棚から分厚いファイルを持ち出す。
ドン、と音を立ててテーブルに置かれたファイルから、アルバーンは怪しそうな資料を迷うことなく探り出していく。
“イスタンブルだっけ? その怪しいコンテナ。航海の最初の時期に積んだから、埋もれている気がするんだが”
“この
男がつり目を見開いた。すんなりアルバーンがコンテナの場所を当てたからだろう。
聞いた通りのコンテナの位置を通信で班に通達する。
その横で、アルバーンは男を煽るように瑞穂語で呟いた。
「わたし、この表くらい読めるから。ざぁんねん」
真顔になってしまった男は、腰の後ろに手を回す。俺たちはそれが何を意味するか知っている。
アルバーンはすぐに反応し、ショットガンを構える。
“動くな!! ゆっくり両手を上げて、手のひらが見えるように!
ハウンド
一等兵曹が大尉に命令するのは問題だと思うが、作戦の進行上、その点は無視しよう。
覚えておけ。
船長と思しき男のもとに行くと、彼は暗い中でも分かるほどに目が血走っていた。マズいな。
思った通り、彼はショットガンに掴みかかってきた。セーフティーをロックしたままでよかった。
銃を取り上げようと押し倒す勢いで突進してくる彼だが、押し負けることはない。
だがほかの船員たちが襲いかかってくるのはきつい。船長のほかに3人いる。
小太りの船員が迫ってくるので、それを蹴り倒す。その男は倒せたが、一時的にでも不安定な体制になり、壁に押し付けられた。
腕の力に任せて、ショットガンにしがみつく船長を振り払い床に倒すと、次の男に銃口を向けて牽制する。手を上げているが、ほかにも男がいる。抵抗できないよう痛手を加えたほうがいいだろうか。
アルバーンのほうを見やると、あっちでも小競り合いがあったようだ。発砲音がしていたが、アルバーンは拳銃を取り上げて、丸腰にさせている。
近接格闘戦については、アルバーンは一級だ。チンピラ相手に引けを取らない。
だが、問題があるとすればこの後だ。
“ハウンド
また船長が立ち上がり、俺の気を散らす。
すぐ蹴り倒してノックアウトするが、まだ気が抜けない。緊急時用の消防斧を持ち出してきた男がいるのだ。気を抜けば重傷を負わされる。
自衛とはいえ、大怪我はさせたくない。この後密輸ルートなどを聞き出したいのだ。
扉をぶち破る音がした。運び屋が鍵ごと壊して船橋から逃げ出したようだ。よくもあの頑丈な扉を。
“17! そいつはもういい、こっちを手伝え!!”
“ネガティブ!”
あろうことにも、アルバーンは逃げ出した男を追っていった。俺一人で4人を拘束しろと?
仕方ないか。
銃口を天井に向け、一発発砲する。
俺の前で銃口を向けられていた男はすぐに後ずさったが、消防斧を持った男は逆上したのか襲いかかってきた。
振り下ろされた斧を躱し、勢い余って突っ込んでくるままにする。その腹に膝を入れて、彼が
一瞬だが時間ができた。
班に通信を入れる。
“1人運び屋が
俺一人で船橋を制圧するのは無理だ。ハンドカフが足りない。誰か寄越してくれ。
とりあえず危険人物である船長と消防斧の男をハンドカフで拘束することにする。
あと二人は、応援が来るまで俺が見張ることになる。
もっとまともな奴はいないのか。せめて部下だけでも。
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セーフティー――安全装置とも。銃の暴発を防ぐための機構。
艏――船乗りの間では業界用語的に、船首側のほうを「
ハンドカフ――簡単に言えば手錠。軍用のものになると、多くはナイロン製など結束バンドのような拘束具が一般的。
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