ヨウが真面目でよかったわ
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昔のことだ。150年ほど前。日本列島は、自然災害に見舞われた。
地震と津波、富士山の噴火。同時に起こった日本は、地獄だったらしい。人々はただその自然を教授するしかなかった。
地震の影響によって、深海に埋まっていた
それからいくらかして、張りぼての法整備がなされ、魔法省が設立された。
その中でまず規制されたのが、生き返りの魔法だ。
倫理的な観点からはもちろんだが、それ以上に、魔法には代償、副作用が認められたのだ。
自然災害によって日本列島は悲しみと絶望の渦中だった。生き返りの魔法を使う者は後を絶たなかったが、生き返りの魔法を使い、生き残った者はいなかった。
要は生き返りの魔法とは、術者の命の犠牲にして、死者を呼び戻す魔法なのだ。
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人のいざこざなどなにも知らないといわんばかりに悠々と水槽の中で泳ぐ魚たちが恨めしかった。
ソ・ヴァイ=レーニ
法律で禁止されている魔法だ。
クッキーから無言で渡されたレポートに書かれている魔法名と術式は、間違いなくそれそのものだ。
「じょ、冗談、だよね?」
私の口から出た言葉は、滑稽だった。
口を固く結んでいるクッキーの顔は真剣で、冗談なわけがなかった。
それに分かっている。クッキーには生き返ってほしい人がいる。それはたぶん、私もできればまた会いたいと思っている人だ。
でも、だめだ。違法なんだよ。
クッキーは黙ったままだ。きっと、いや多分、私の返事を待っている。
「……手伝えるわけ、ないよ」
「ヨウが真面目でよかったわ」
クッキーがレポートを私の手から取り上げた。
倫理に反するというのもあるがそれ以上に、魔法には副作用が伴う。
「それをすると、クッキーがいなくなるでしょ」
冷静になれ、感情的になるなと自分に言い聞かせた。それなのに、出た声は自分でもわかるほどに震えていた。クッキーがレポートを見ている。どんな気持ちでそれを見ているのか推し量ることはできない。
「私は、いいの」
クッキーの言葉は柔らかく優しかった。
「私の副作用、知ってるでしょ」
「うん」
クッキーの魔法の副作用は、物忘れだ。生活に支障をきたすことはない、かなり軽度なもの。だが、精神の影響もあるのか、ただひとつ重大な記憶の欠落があった。
「わかってるの。私、アンが死んだこと、覚えてないのに、知ってるもの。変でしょ。こんなの」
クッキーが笑って、レポートを鞄にしまった。私はどうしていいかわらかず、ただ、唇を嚙んだ。
館内で絶え間なく聞こえてくる水の流れる音が、雑音のようだった。
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