アクアリウム、行こうよ。
一通りモールの商業区を一周して外へと出た。買い物自体はかなり楽しかったと思う。けど、なんだかもやもやしていた。
クッキーの隣を歩きながら、なぜ? を自分に向かって問いかけている。
魔法を使ってしまった。というのがどうも頭の中でぐるぐる回っている。久しぶりに使った魔法は何不自由なく機能した。
それがなんともうれしいのか、悲しいのかわからなかった。
「ぼーっとしてるわね?」
クッキーがきいてくる。見透かされてしまう程度には、私はつまらなそうな顔をしているのだろうか。
「いや、まぁうん。考え事」
「元気が出る魔法、唱えてあげようか?」
私たちは幼少の頃から、魔法を見聞きする。
元気の出る魔法は、おそらく誰もが一番初めに覚える魔法だ。
「いいよ。気休めの魔法でしょ?」
「そう。私、好きなのよね。気休めの、元気が出る魔法」
私が在学していた頃、教授はその魔法をよく唱えていた。
子供のうちはよく聞くけど、大人になるにつれて滅多にきかなくなる親が赤子をあやすときに言う いないいないばぁや、子供が怪我をしたときに言う痛いの痛いの、飛んでけ~とよく似ている不思議な魔法。
唱えると確かにわずかながら魔力が揺れる。
正直、意外だった。
「クッキーの好きな魔法、治療魔法だと思ってた」
「それは得意な魔法よ」
クッキーは即答した。
「好きと得意って違うでしょ?」
「そうかも」
誰でも得手不得手はある。それは魔法の特性も同じ。
クッキーは治療の魔法がズバ抜けて得意な人だと思う。彼女以上に、治療の魔法が得意な人を私は知らない。
そういえば、
「クッキーはどこに向かってるの?」
明らかに来た道とは違う道を通っている。
「アクアリウム、行こうよ」
アクアリウムはモールの近くに建っていたような気がする。昨日通ったときは、あまりのくたびれ具合にびっくりしたのを覚えている。
「営業してるの?」
「それはちょっと失礼じゃない? 私の行きつけよ」
「ごめん」
「ま、無理もないわね」
アクアリウムの前まで行く。その建物のくたびれ具合はより浮彫になった。蔦ばかりが生えて錆のひどい鉄骨の建物。
その中にクッキーは平気で入っていく。私も数歩下がっておずおずと入口を潜った。カウンターで、エプロンを着た同じ年程の男子がこちらを見た。バイトだろうか。明らかに嫌そうな顔をした。
「うわ。また来たの?」
「何よ。悪い? 大人二人ね」
到底、接客とは思えない第一声の彼はクッキーを睨んだあとに私を見た。目が合うと、相手の方から目を逸らした。
「こりゃ驚いたよ。菊に友人がいるなんてな」
「お知り合い?」
間違いなく知り合いだろうが、一応聞いてみる。
「そ。幼少からのね」
さっさと話を切り上げたいのか、二人分のお金を払ったクッキーが受付のゲートを抜ける。私もそれに続いた。
中に入ると、大小それぞれショーケースがいくつも並んでいて、小さな魚たちがゆらゆらと泳いでいた。
「おお」
思わず、声を漏らした。
「ちょっとは元気、出た?」
「出た」
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