お金があるって素晴らしい。

「これでも言い逃れをしますか?」


 二枚の白紙をカウンターの上に置いた。

 男は目を泳がせている。当然だろう。偽札は重罪だ。

 

「なんだよ。……お嬢ちゃん 自然派の人間かよ。こりゃ参ったな」


 男はまるで参ったという調子ではない。ただ今の言葉は、彼が金冠石ゴルディウムなしでは魔法を使えない”石派”であることを示唆している。


「警察呼んでもいいですよね?」


「それは困る。困るなぁ~。ほんと自然派はズルいよなぁ。俺はコレがないと魔法が使えないんだぜ? 不公平だろ」


 男の手が先ほど私との取引で得た石に伸びていた。おそらく石を使って何かしらの魔法を使う気だろう。


「動かないで。エア・リド」


 クッキーだ。こうなることは予想できたのか、彼女が男に向かって親指と人差し指を立てて、拳銃に似せた構えを取ると、人差し指の先端に風が収束していく。


 男は手を止める。


「はぁ? 二人揃って自然派かよ。ついてねーわ」


 男は降参したように両手を挙げた。


「そこのレジ開けていいからよ。見逃してくれよ」

「嫌よ。フー・ピスト」


 クッキーの指に集まった空気が消えるのと、男が倒れたのは同時だった。


 ◇◇◇


 数分もしないうちに、居住区から警察一行が到着した。

 一番恰幅の良い警官が、部下に指示を出し犯人の身柄確保を命じ、本人は一番にクッキーに駆け寄った。


「菊ちゃん! 無事かい!?」


 やってきた警官とはどうやら顔なじみらしく、クッキーが「平気よ。おじさん」と応じた。たしかにそんなに大きくない町だし、ほとんどの人がモール住みという居住区では、誰もが顔なじみというのはよくあることだ。


「きみも怪我はないかい?」


 警官の目が鋭くなる。


「あ、はい」


 私の全身を一瞬で見て、外傷がないことを確認したようだ。人が変わったように人懐っこい笑みでよかったと漏らした。


「急だったから、レポートを使わずに魔法を使ったの。その分のレポートを提出するわね」


 クッキーが鞄から三枚レポートを警官に渡す。


「うん。確かに」

 

 警官がレポートをファイルに入れた。

 それから、いくらか事件の事情聴取を受けた。とはいっても、クッキーと警官はずいぶんと仲がいいようで、重苦しい聴取にはならずに済んだ。


 ただ、忠告として5グラム以上の金冠石ゴルディウムの換金はできればしないことを勧められた。


 5グラムあれば、大抵の強大な魔法の副作用を肩代わりしてくれるから、気が大きくなる石派の人が少なからずいるらしい。


 換金所からは正当に10500円を入手することができ、無事に私たちは開放された。


「換金するのに、半日使っちゃったわね」

「ごめん……」


 元はと言えば、なんの準備もなくここにやってきた私が悪い。


「ちょっと謝らないでよ。私がいじめてるみたいじゃん」

「クッキーにいじめられたー」


 私が冗談を言うと、クッキーが笑った。


「気を取り直して買い物しようよ!」


 私たちはモール内を見て回った。


「少しはオシャレしなよ! ヨウ、いつもジーンズじゃない」


 とクッキーがやけに上品なスカートを勧めてきた。


「これが動きやすいんだよ。機能性重視」


 クッキーは不服そうだったが、最終的には折れてくれた。


「たしかにヨウはそれがしっくりくるかもね」


 モール内を回ってクッキーはTシャツとオーバーオール、それとレポート用紙の束を手に持っている。私は代えの下着と黒のパーカーとジーンズを購入した。


 それからも私たちは、モール内の珍味を食べ歩いたり、雑貨屋でクッキーの部屋に合いそうな小物を眺めたりしながら、ショッピングを楽しんだ。


 ああ、お金があるって素晴らしい。

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