お嬢さん。いいのを持ってるね
「この町のモール、陰気でしょ」
「それは返事に困るなぁ」
モールに入るなり、クッキーの言葉はかなり辛辣だった。
「せめて商業区はもう少し活気があってもいいと思うのよ」
通路の両隣に並んでいる区画ごとに分かれた店を見渡す。
人の姿はまばらで買い物は比較的しやすそうだ。
「そうかも」
随分昔に建造されたショッピングモールと呼ばれていた建物は、修繕に修繕を重ねて人々の居住区と、生活用品や食料が購入できる商業区に分かれている。
「ま、置いてるものは案外掘り出しものがあったりするのよ」
クッキーは少しだけ声を弾ませた。確かにクッキーの来ている服はいつだってお洒落なものばかりだ。今日も彼女が歩くたびにロングスカートが揺れていた。
地元で衣類を揃えるなら間違いなくこのモールを訪れてここで揃えているはずだ。
彼女の衣類は、決して古ぼけていたり悪い品という印象はない。
「換金所、そこ曲がったところよ」
「ん」
モールの外れを指差された。換金所では、国の規定に従って、
一番小粒の石をポケットから取り出して店の前に立った。
「換金お願いします」
カウンターの向こうから、男性が顔を出した。とりあえず会釈をしておく。
男はつまらなそうにしていたが、私の手の中にある石をみるなり、目つきが変わった。
「ほぉ」
男がにたりと笑った。
「お嬢さん。いいのを持ってるね」
男は、私のてのひらに乗った石をひったくるようにして自分の手に収めた。かなり不快だったが、これから金にかわるのだから仕方ない。
男は上機嫌で、石を量りに乗せる。
「10.498グラムね」
男がぼそりと呟いた。うれしそうだ。
男の言った通り、量りのパネルには、「10.498 = 10500円」と表示されていた。
男が店のレジから一万円札を二枚出して渡してきた。
「はいよ」
「これ……」
明らかに多い。
「いいんだよ。おじさんはお嬢さんのくれたこいつでもっと稼ぐからさ」
悪い顔だった。
「査定書をもらえますか?」
私が言うと、男はバツが悪そうに顔をしかめた。
「あー、査定書ね。ちょっと待ってよ」
男は棚から書類を出してペンで何かを書きなぐったあとに、店名の入った判で押印した。
「はいよ。今日はもう店じまいだからさ。もう、出てよ!」
書類をカウンターの上に投げ捨てるように置くのと同時に、男がでかい声を出す。
書類には、取引金額と取引をした品、重量がくしゃくしゃな文字で書かれていた。ほとんど読めない。なにより、店名の入った判はあるもののその隣に、取引担当者の魔法印の欄が空欄だ。
クッキーが失笑した。
「この査定書ではなんの効力も持たないはずよ。ちゃんと魔法印を押して」
「なんだよなんだよ。いいじゃん別に。効力なんてなくても、お金はしっかり払ったろ!? ほとんど倍のお金をあげたんだからさ。それで手打ちにしてくれよ」
これだから、
クッキーが肘で私の脇を小突いた。言わんとしていることはわかる。
あまりにも不本意だが仕方ない。
私は渡された一万円札二枚に、意識を集中させた。
「ヒン=ド・ヴェル」
まやかし破りの魔法だ。私の手の中にあった一万円札が白紙の紙切れになった。
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