秘密だよ。秘密。私は秘密が多いんだ
ドリッパーから一滴ずつ落ちる雫を眺めながら、珈琲をいただく。贅沢な時間だと思う。クッキーの淹れたおいしいコーヒーを飲みながら、私たちは今日の計画を話し合っていた。
「ミルク足したいな」
私は苦いのが苦手だ。
「もうたっぷり淹れたつもりなんだけど」
そう言いながらも、ミルクを差し出してくれるクッキー。
「あ、砂糖も」
「注文が多いお客様ね」
角砂糖も二つ入れる。これは間違いなくうまい。
クッキーはいとも平然とブラックコーヒーを飲んでいた。
ちっこいくせに、その姿はやけにさまになっていた。
「モールで何買うの」
クッキーは今日、モールに用事があるらしい。
「夏物の衣服が欲しいの。ついでにレポート一束かな」
今日のクッキーはワンピース姿だ。よく似合っていると思う。
「私も服が欲しい」
何せ、着の身着のままここまで来たのだ。
クッキーがにやりと笑った。
「軍資金は?」
ことオシャレになるとクッキーはうるさい。学生時代もそうだった。
ポケットから財布を出して、中を確認する。
「……648円」
「バカなの?」
クッキーの辛辣な口にめげず、私は言ってやった。
「バカだよ」
「ほんとうに、どうやってここまで来たわけ?」
「秘密だよ。秘密。私は秘密が多いんだ」
適当にはぐらかしてばかりだ。信じてもらおうとは思っていないし、おそらく向こうも深く詮索はしてこないだろう。
「それじゃ、シャツの一枚も買えないじゃない」
「仕方ないから、
「
「50グラム」
私は言ってやった。
「うそ」
「ほんと」
ポケットの中に手を入れて、4粒の
クッキーは目を丸くして、「お金あるのかないのかどっちよ」と呟いた。
「これはお金とは違うと思うけど」
「それはそうかもだけど、持ち込みすぎじゃない? しかも石を裸で持ち歩くのもどうかしてるわ」
言われて確かにその通りだと私も思う。せめて瓶だったりに詰めておけばよかったが、あいにく、家を追い出される前にそんな悠長な時間がなかったのも事実だ。
「そうかも」
「まぁ、いいや。じゃあ、まずはモールの換金所ね」
クッキーがぐびりと珈琲を飲みほす。私もそれに倣った。おいしいコーヒーだった。
それが合図といわんばかりに私たちは外にでかける準備を始める。とは言っても私に準備するものはなく、クッキーの支度を待った。
「あーあ。夏休みじゃなかったら、アンも誘ったのにね」
部屋の鍵を持って靴を履くクッキーがぼやく。
「そうだね」
「まぁ、仕方ないよね。行こ」
クッキーに言われて、玄関へ行き靴を履く。
私たちは、モールへと足を伸ばした。
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