機関士は笑う
汽車から見える世界はどこか現実離れしていた。
現代には見慣れない街並みだった。
これはどこに向かっているのか。いきなり高額な運賃を支払わされたりしないだろうか。他の乗客はいないのだろうか。いろんな疑問が沸き上がった。とにかく状況を知りたい。
脱ぎ捨てられたジーンズをはいた。上着も着た。
ドラマやアニメで見たことがある。アンティークな西洋の汽車はホテルのように廊下があって等間隔に扉が並んでいる。その扉の向こうが個々の客席となっているのだ。きっと私が眠っていた部屋も客室の一室だったのだろう。
とりあえず進行方向に向かって歩くことにする。
汽車なら車掌なり、ここを監督する人がいるに違いない。三車両ほど来たところで、機関室と書かれた扉に突き当たった。おそらくこれだと思った。
扉をノックする。「へい」と短く太い声がしたかと思ったら扉も開いた。大男だった。二メートルは優に超える体躯の男でごわごわしているといった感じだ。
「ああ、お前が姉御の客人だな」
「あ、いや、えっと――」
言葉に詰まった。姉御の客人というのは、あれだろうか。神業の店主のことを指しているのだろうか。きっとそうなのだろうとは思うが。
「なんだ違うのか?」
男が訝しむ。これは良くない。怪しまれたりしたらこの汽車の上では逃げ場なんてない。
「ち、違わないですっ」
声が震えた。
「そうか。やっぱりそうだよな」
機関士の男がにっこりと笑って肩をがっしり握ってきた。逞しい腕をしている。肩の骨が外れなかったのはきっと加減をしてくれたからだろう。
「姉御の客人なら、俺の客人でもある。しっかりもてなしてやるからな。俺はこの汽車の機関士だ」
前歯を見せて笑う彼の顔は、人好きがする顔だった。
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