白煙もくもく

警笛の音。小さい頃にテレビの向こうから何度も聞こえてきたあの音だ。そう自覚して、自分はどうやら目が覚めたのだ。タタンタタンと聞こえてくる。寝る前は無音だったはずだ。何帖なんて数えるのも億劫になるだろうただっぴろい空間に、大きなベッド。そこで眠っていた。眠って朝がやってくるのを待っていた。だけど、夜だ。まだ、夜。起き上がる。確かにバカみたいにでかいベッドの上にいた。寝る前に身を預けたベッドだ。遠くからタタンタタンと聞こえてくる。おかしい。窓がついている。寝る前はなかったはずの、窓がついている。景色は移り変わっている。そう。部屋が自走しているかのように、どんどん景色は変わっていく。ビルが見えたり、山が見えたり、海が見えたり、変わっていく。タタンタタンと音を立てながら。そして、警笛の音。窓の向こうに白い煙が立ち込めて、辺りが見えなくなる。おかしい。どうも、いよいよ、おかしい。ベッドが同じだけで、まったく別の場所にいることはまちがいなかった。ベッドから降りて窓へと近づく。窓にべったりと顔をつけて外を見た。頭の中の予感は確信になった。黒い車体が線路に沿って進んでいた。タタンタタンと心地いい音が、リズムになって身体中に響いていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ルル・エ=ト・ノスタ 維櫻京奈 @_isakura_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ