第5話

 大弾圧以降、大図書館はすっかり静かになってしまった。喧噪の中心にあった学生は帝都を追われて散り散りになっていた。

 現実世界への無関心ゆえに弾圧を逃れたフランチークであるが、一方で虚しいような気分にもなった。たしかに、あの手の連中はやかましかったが、顔見知りではあった。快活かつ知的であり、それほど悪い連中でもなかったように思える。あの学生たちは、いまはなにをやっていることやら……

 フランチークの図書館籠りは、相も変わらず続いていた。知識をかわれて、長期にわたる探検調査に駆り出されることもあったが、それ以外についてはおおよそ、彼の肉体は大図書館の中にあった。

 一方で彼の魂は、現実の場所と時間を離れて、解放戦争時代をさまよっていたといえるのかもしれない。

 彼は修道会が編纂した正史を何度も読んだ。現存する野史も余さず読んだ。当時制作された石碑の碑文の写し、反乱軍兵士が残したといわれる望郷の詩歌──とにかく、解放戦争時代の情報がわずかにでもほのめかされているものは、全て読んだ。

 彼の頭の中には、解放戦争の地理的推移と時間的推移が再現されていた。それは絶えず点検され、常に更新されつづけたが、全体としてはすでに完成しているものだった。無論、資料上の欠落というものはどうしても残ってしまうが、事象の細部に繰り返し現れる構造と全景を把握すれば、その空白を埋めることは訳がなかった……すくなくとも、フランチーク自身はその推論が正しいと確信することができた。

 やがて彼は、その推論を自著として残し始める。

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